『群馬から福島へ』読売新聞 文化欄連載コラム 2012年9月22日掲載

 強烈な日差しが照りつける8月、私たちは福島市にある土湯温泉を訪れた。
メンバーは中之条ビエンナーレをきっかけに知り合ったカメラマンや作家、デザイナーなど約十名の仲間達。土湯温泉の方々がアートによるまちづくりに興味を持たれ、温泉街でのイベントを見に中之条町を訪れてから交流が始まった。2つの土地は離れてはいるが、温泉文化と奥山のものづくり文化という共通点がある。私のやってきた活動が群馬と福島の架け橋になれないだろうかと考えていたところだった。福島は震災以降とても大きな問題を抱えながら歩んでいる。それを少しでも一緒に抱えて共に歩んでいきたいと思ったのだ。
 土湯に着いた私たちを最初に迎えてくれたのは見上げるほど大きなコケシ。この町はこけし工芸が有名で、商店街ではこけし職人の工房を覗くことが出来る。あたりを散策すると温泉と木の香りが混じり合い、なんとも心地よい空気が町全体を包んでいる。
温泉協会の建物に入ると旅館の旦那衆やこけし職人さんが快く迎えてくれ、互いの郷土文化の話に花が咲いた。数日の滞在はあっという間に過ぎ、土湯の人たちの暖かさに触れることが出来たと同時に、抱える問題も少しずつ見えてきた。

自分に何が出来るか分からないが、一方的にイベントの様なものを持ち込むのではなく、まずは土地と人を知るところから始めて、そこから産まれてくるものを大切にしようと思う。
イベントを立ち上げて人を集めるのではなく、人が集まりそこにイベントが作られる。
中之条ビエンナーレも作家が集まったところから生まれたものだからこそ、作家と地域に受け入れられ、広がりをもっているのだろう。
そして大きくなった一つのプロジェクトから、また別のプロジェクトが派生する。こうなれば地域づくりは加速度的に面白くなってくる。こうした活動を継続するにはヨソ者と地元が良い関係を築き、民間主導でおこなうということが大切なのだと感じる。

(読売新聞 2012年9月22日掲載) 文化欄連載エッセイ 山重徹夫

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