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『チェンマイから』読売新聞 文化欄連載コラム 2014年1月11日掲載

上州の山々が薄っすらと雪化粧をはじめた頃、私はアーティストの交流プロジェクトに参加するためチェンマイを訪れた。今回の目的はアジアのアーティストやその関係者と繋がりを作り、将来的に群馬とアジアを結ぶためのプロジェクトを立ち上げられればと考えている。
チェンマイ空港から車で2時間ほどでバナナの生い茂る熱帯の森を抜け、山々に囲まれた珈琲農園にたどり着いた。農園のオーナーはいくつもある作業小屋や家屋にアジア各国からアーティストを招き、滞在制作や交流の場として開放している。ここで数日間アーティストと交流し、その後、熱気に満ちたチェンマイ市内に移り、ギャラリーや寺院等を見学する予定である。農園の近くには小さな村があり、食事の時間になると地元のお母さん達が笑顔で料理を振る舞ってくれる。日本の里山に居るようなとても和やかな雰囲気だ。農園を囲む森からは熱帯特有の美しい鳥のさえずりや虫の声が聞こえ、とても居心地が良いただ、あまり細かいことは気にしないのだろう、家屋は隙間の多い作りで、部屋にはヤモリや虫がたくさん入ってきて多少緊張する。
日中は各自制作をして、夜になると共に食事をして焚き火を囲んで唄を歌う。この環境で滞在制作するアーティスト達と寝食を共にするうちに、互いの文化の違いに気づかされ、様々な価値観が存在することを実感する。そのことは制作に取り組む上で、作品に対する意識や美的感覚を明確化するための材料となる。
日本の地方でも衣食住をはじめ祭事や風習など多様性に富んでいて面白い。広島で生まれ育った私にとって、数年前に移り住んだ群馬の文化もとても新鮮に感じられた。土地の持つ固有の文化の中で生活していると、なかなかそれ自体を意識することは難しい。しかし、アーティストや地域づくりをしている人にとっては、自らを知るということはとても重要な部分になってくる。
文化を守り育てて行くためには、枠組みをこえた交流が大切なことだと、今回改めて実感することが出来た。

(読売新聞 2014年1月11日掲載) 文化欄連載エッセイ 山重徹夫

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