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【業界実態解説】IT業界のおかしな偽装請負対策~問題の本質と提言

昨今の状況

SIer、SES、ITコンサルの営業・現場マネージャーの皆さん、あるいは発注側のユーザ企業IT部門の皆さん、偽装請負対策についてあれこれと思案することも多いのではないか?

私の観測範囲では、10年ほど前なら多重請負やピンでの現場派遣(リアルな派遣契約ではなく準委任契約での現場常駐のこと)を問題視する人などほとんどいなかったが、最近は多くのユーザ企業、プライムベンダーを中心にだいぶ気にされるようになっている。

大体の場合において
①元請けのプロパー社員が体制に入っていること
②一人現場ではなく体制として現場入りすること

のいずれか、または両方を「少なくとも外形的には満たす」ことを条件としているようだ。

①元請けのプロパー社員が体制に入っていること

ユーザ企業→1次請けA社→2次請けB社→3次請けC社
という商流で、3名の体制を組むとする。(契約はユーザ企業→A社、A社→B社、B社→C社いずれも準委任契約とする。)

この場合、少なくとも1名はA社のプロパーの必要がある。
ユーザ企業から、管理責任者たるA社のプロパー社員が依頼を受け、A社の管理の下に業務を遂行しないとならないわけだ。

ユーザ企業が直接B社、C社に依頼をしてはいけない。
ゆえに「3名ともC社の社員で、A社・B社は中抜きだけ」というのはNGだ。
(中抜きだけで案件に直接関わらないというビジネスモデルの是非は一旦おいておく)

そもそも上記ですら気にしていない会社もまだまだあるのだが、仮に満たしたとしても突っ込みどころがないわけではない。

例えばA社からの作業依頼はどうなっているか?
A社のマネージャーXさんが、C社のSEのZさんに個別に指示を出していたら、A社とC社の実態は、B社を経由した再委託ではなく、派遣契約と同様「A社が使用者」という状態となり、偽装請負となるだろう。

だが、実態としては多重請負の下層に行けば行くほどこの辺を気にする会社は少なくなるので、ユーザ企業からA社のマネージャーXさんへの依頼までは「合法的」に行われていても、A社からB社・C社への依頼は実質A社の直接指示で行われていることが多い。
ただ、契約書類上では実態が違法であることまではわからないので、最低限外形的には違法でないことだけは担保するという運用だけを確実に実施するというのが落としどころになっているのだろう。

②一人現場ではなく体制として現場入りすること

さて、①のパターンはユーザ企業から見て最低限の形式を整えるというスキームだったが、もう少し厳しくやっている場合もある。
聞くところによると公共系の案件はかなりうるさくて、1次請けの会社が2次請けの会社に対して「プロパーの管理者を含む2名以上の体制」での提案を求めることもあるらしい。
当然1次請けの会社も同様に「プロパーの管理者を含む2名以上の体制」を満たしていることになる。

厳密に考えれば「1人アサイン」であっても、その1人がマネージャークラスであり管理責任者兼作業者としてのケイパビリティがあれば問題ないはずだが、多くの場合「1人アサインはただの作業者であり、元請けのリーダーの直接指示を受けることになる」という想定で、「プロパーの管理者を含む2名以上の体制」というのを各協力会社に一律要求しているのだと理解している。

この制約の抜け道としてよく見かけるのが、名義だけプロパーの管理職を0.05人月といった「極小」の工数でアサインするというやり方だ。
実態はSEのAさんの1人アサインだが、Aさんの上司のXさんを管理責任者としてセットで提案するわけだ。
Xさんは月イチの定例にだけ挨拶がてら出席するが、日々の業務はユーザ企業の社員からAさんに直接指示が行われているのが実態だ。

何のためにやってるんだっけ?

この涙ぐましい努力、本当に意味があるのだろうか?
「偽装請負は違法行為、防止するのは当たり前!」と言ってしまえばそれまでではある。
だが、もう少し掘り下げてみたい。
偽装請負がなぜよくないのか?
それはまさに労働者が不利になるからに他ならない。

偽装請負の問題は責任の所在が不明確になることにより、現場で業務する労働者の雇用条件や安全衛生、労働環境が適切に確保できなくなる、つまり労働者不利、会社有利になってしまう点にあります。

NikkenTotalSourcingさんより
https://www.nikken-totalsourcing.jp/business/tsunagu/column/177/

極端な話、1人アサインだろうが、プロパー不在だろうが、現場に派遣されたSEが不利益を被ってなければ問題ないし、逆に外形的に偽装請負っぽさを消していたとしても、実態としてずさんな労務管理・長時間労働・残業代不払いがあれば問題なわけだ。

働き方の多様化に合わせて意味のある労働者保護を!

また、昨今人数が増えている個人事業主のアサインについても、この形式的なルールが足かせになって、自由に行えないという問題もあるだろう。
個人事業主は基本的に1人アサインになるので、体制を組むなんてのは無理ゲーである。
また、最近はフリーランス向け案件紹介業者経由でプロジェクトに入る人も多い。商流的には元請け→紹介業者→個人事業主となるわけで、「わざわざ紹介業者を通じて日々のタスクを依頼されるの?」というバカげた話になる。

今後ITエンジニアの働き方は間違いなく多様化する。

・リモートワーク当たり前
・正社員/契約社員/派遣社員/個人事業主の選択肢から自分に合った雇用形態を選ぶこと
・ユーザ企業のIT部門、ITコンサル、SIer、Webサービス企業など様々な立ち位置を複数経験

私はこの多様化の流れは良いことだと思っている。
「リモートなんてとんでもない」「新卒で入社して定年まで正社員として過ごすのが普通」という業界もまだまだあるし、そういう業界を否定するつもりは全くない。
でもIT業界は自由な働き方や、柔軟なキャリアデザインがしやすいのだから、率先してどんどん社会の雰囲気をアップデートしていけばよいと思うのだ。

そんな中、いくら法律を守るためとはいえ、全く本質的ではない偽装請負対策に奔走している業界を目の当たりにして少々残念な気になっている(厳密には全然守れてないし…)

じゃあどうすればよいのか?
私なりの提言でこの記事を締めたいと思う。
2次請けSESの社員だろうが個人事業主だろうが、契約ベースで働く専門職であれば誰でも加入できるギルドのようなものを作ることだ。

労働者の雇用形態が多様化しているのに、旧来の労働組合が守っているのは正社員の利益だけだ。
そして多くの中小SES企業に組合などない。
もはや企業別組合ではほとんどの労働者は守れないのだ。

ITエンジニアギルド(仮)では、エンジニアの信用情報を改ざん不可能なブロックチェーンの仕組みで可視化する。また発注元のユーザ企業やIT企業に対する評判も同じように可視化する。
よい評判の人や企業には、同じようによい評判の企業や人が集まってくる。直接企業と人がマッチングできるのであれば中抜きの業者も必要なくなる。
この仕組みであれば、労働者(もちろん個人事業主を含むすべての雇用形態を指す)をないがしろにする発注主がいたとしても、いずれ淘汰されるだろう。

書いていてなかなか実現は難しそうだなとは思ったが、まずは問題提起だけでもしてみようということで、思ったことを記事にしてみた。
他の人たちがどんな風に思うのか、ぜひ聞いてみたいと思っている。

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