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#38 京都大学を中退した医学部生が世界一周してみた

インターネット在りて、この冒険在りーブルネイダルサラーム③

とうとう、冒険の地、ブルネイに降り立つ時が来たのだ。

ここから先も、インターネットに頼ることなく、必要な情報は現地の人から得ながら、この地を楽しむのだ。




と思うのも束の間、どこからともなく違和感を覚えたぼくたちは、ここがブルネイかと職員に尋ねてみると、違う、とのことだった。

ブルネイに行くには、船を乗り換える必要があり、ここは「ラブアン島」という場所だと、職員は教えてくれた。

そして、そこから先は、ただただ驚くことしか無かった。


まず、その「ラブアン島」の船着き場には、なぜかいくつかの国旗があしらわれており、ぼくたちはここが、どこの国に属している土地なのか見当が付かず、当惑する限りであった。


更に、市街に降り立ってみれば、そこに存在する無数の、「TAX FREE」という文字に、目をしばたかせるばかりであった。


試しに商店に入ってみても、確かに、マレーシアで割高であった酒やタバコの類が、割引という範囲を超えて、安く売られていた。


また、宗教柄であろうか、マレーシアでは首都のクアラルンプール以外、どこか人目を避けるように売られていた、ビールやウイスキーの類が、パブのような酒場で、平然と提供されているようだった。




「ヤマイ。ここは一体どこなんだよ」


「トモ君。よくわからないけど、なんだか凄い所に着いたみたいだね」


「いや、凄いよ。ここは楽園だな、きっと。誰からも聞いたことないし」


 自分たちがこの地に立っていることや、それから、この土地自体の存在ということまでを、精神的に担保するため、二人は会話を交わしていた。


「とりあえず、島全体が免税ってことか」


「うん、ビールとか安いし。マレーシアとも雰囲気全然違うよね」


「そうだな。もしかしてここは、どこに国にも属していないんじゃないか?」


「かもしれないね。空港で言うと、出国した後の免税店とかがあるエリアってことだよね」


情報流入を極限まで避けた結果、自分たちで仕掛けた罠に、自ら落ち嵌っているような感覚だった。


船のチケット売り場で、注意点をしっかり聞いておけば、ここまでの驚きは無かったかもしれない。


船が途中で停泊し、そこで乗換が必要であるということすら、知らなかったのだ。


「ここはどういう島ですか?」

などといった、余りにも要領を得ない疑問を、現地の人に投げかけることも憚られたので、ラブアン島という土地の性格については、目で視て得られる状況から、推測をすることしか出来なかった。


もちろん、そんな状況を憂うこともなく、クエスチョンマークで埋め尽くされそうな、この現状を、ぼくたちは間違いなく楽しんでいた。


街の治安や、雰囲気ということを鑑みず、無防備に歩き回り、スキャニングするかのように街中を目で舐め回したり、鼻腔を空気で満たしたりしながら、体全体でその場所を遊んでいた。


しかし、ここで一つ残念だったのは、ブルネイ行きの船に乗るまで、2時間ばかりの時間しか許されていなかったということだった。


あっという間に過ぎ去った、ラブアン島という場所と、2時間という樹蜜のように濃厚な時間に背中を突かれながら、ぼくたちは船着き場への道を引き返していた。


「しかし、こんなにビックリすることも、あんまりないよな。めちゃくちゃ楽しかったな」


興奮冷めやらぬ、とはこのことだろう。朋也は感情を目いっぱいに湛えた表情でそう言った。


そして、その余韻に袖を引かれるように、ぼくは提案した。


「というかさ、ここに一泊して、それからブルネイに行かない?」


「確かに、それはありだな…」




 その後二人は、船が出る時間ぎりぎりまで、それについて迷ったが、結局は、ブルネイも同じくらい楽しい場所に違いない、という朋也の意見を採用し、ラブアン島で宿泊することはせずに、本来の目的地へと急ぐことになった。

続く

第1話はこちら
https://note.mu/yamaikun/n/n8157184c5dc1


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