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#37 京都大学を中退した医学部生が世界一周してみた

インターネット在りて、この冒険在りーブルネイダルサラーム②

自分たちにこれといった情報がないこと、そして他者による情報の自然流入が少ないこと、更に、着いてみるまでその国について調べてはいけないこと、この3点が条件だった。

そうして選ばれたのが、ブルネイダルサラームという国だ。

ボルネオ島北部マレーシア領の扁平な領土に、楔を打ち込むように位置しているこの国だが、日本国籍を有する人であれは、ビザの事前取得無しで入国できることだけは、前もって調べておいたのだ。

そして、そんな計画を始めてから、既に1ヶ月近くが経った3月12日、ぼくたちはキナバル山登頂を達成し、市街地に戻ってきていた。

あまり休む暇もなく、明くる日の3月13日は、例の黒胡椒を買い付けたり、最低限の情報として、コタキナバルからブルネイへの行き方というのを、インターネットではなく、現地の人づてに調べたりとして過ごした。
ブルネイへは、コタキナバルからバスで行くか、或いは船で行くかの選択肢があるようだった。

船の方が値段も安く、所要時間も短いということから、ぼくたちは船で向かうことにした。

その際、事前に売り場でチケットを買う時にも、情報流入の阻止を徹底する為か、ただ面倒だった為か、売り子の話にあまり積極的に耳を傾けることはなかった。

そして、この日がマレーシアで過ごす、最後の夜となる。

結局この国では、あまりのんびりと過ごすことが出来ず、例の黒胡椒もじっくりと探すことは叶わなかった。

またしても、地元のスーパーマーケットで、既製品を購入するに留まってしまったのだ

日は変わり3月14日の朝、ぼくたち二人は、宿から歩いてそう遠くない港より、船に乗り込んだ。

比較的空席が目立つ船内で、座席を横に3つほど使い、いつも腹側に背負っている、小さめのデイパックを枕にして、寝転がっていた。





ふと、窓の外に揺れている、二本の鎖が目に入る。

何かの器具を固定するためのものだろうか、その時には、どこに縛り付けられるでもなく、波による船の上下に合わせて、手持ち無沙汰に揺れ、お互いをお互いの体にぶつけ合っていた。


―まるで、旅で出会う人間同士みたいだな


 旅をしていて、その時、その場所に居なければ出会うことの無い、という状況は、ある種の必然性を伴った偶然と言えた。


それは、「その時、その場所に居る」という個人の必然性と、そこにまた、他者の必然性が介入する、という偶然性が同時に存在する、量子力学的な観点からも表現出来るだろう。

 波に揺られる二本の鎖も、交わる刹那、それは偶然起きたかに見える現象であるが、実はその瞬間の波の動きと、各々の鎖の動きには必然性が保たれており、そうして交わる両者は、その時そうなることが、あらかじめ決められているのかもしれない。

それと同じように、旅中のある場所で、偶然交わったかに見える二人の人間は、その「場所」という必然性を支点として、どこか根深い部分で、繋がっているのかもしれなかった。

出会う人とは、出会うべくして出会っている、そう表現してしまえば月並みではあるが、この時、窓の外で音を立てずに絡み合う、二本の鎖を眺めながら、不思議とそんなことを考えていた。





出発してから2時間半か、或いは3時間ほど経った頃、船が港に停泊しそうであることを確認すると、ぼくは出航して以降初めて、体を起こしてじっくりと外の風景を眺めた。

続く

第1話はこちら
https://note.mu/yamaikun/n/n8157184c5dc1


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