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森まゆみ『子規の音』を読んで

『子規の音』森まゆみ 2019.10.27 発行 新潮文庫

内容
 三十五年という短い生涯ながら、明治期、俳句に短歌に果敢な革新運動をしたと評される正岡子規。彼が詠った詩句のなにげない情景は、いまなお読む者の五感を喚起する。松山から上京、神田、本郷、上野、根岸と東京を転々としたのち、東北旅行、日清戦争の取材を経て、晩年の十年を病に苦しみつつ「根アカ」に過ごした全生涯を、日常を描いた折々の句や歌とともにたどる正岡子規伝。

裏表紙より

 子規こと正岡のぼるは松山の人であり、1892(明治25)年から根岸に住み、1902(明治35)年9月19日に、根岸の自宅で死去しました。短い人生ながら、俳句に短歌に果敢な革新運動をした人、というのが文学史的評価です。

 本書は、子規の晩年のイメージとは異なり、彼が快活で活気に満ちた人物であったと述べます。子規の生涯を通じて、彼の革新的な文学運動への情熱や人間性に触れることができる内容となっています。

 正岡子規は、その短い生涯の中で多大なる功績を残した俳人・詩人です。彼は時代の先駆者として、俳句や短歌の分野で革新的な運動を展開しました。そんな子規の生涯を音や風景を通じて描き出すことで、彼の人間性や文学的業績を深く掘り下げています。

 明治時代の町の音や匂い、生きた人々の体温までもが細かく暖かく描写され、著者の子規への深い愛情が感じられます。

 子規は結核に苦しみながらも驚くべき健脚を発揮し、日本全国を歩き回りました。子規の足跡を追い、神社での取材や関係者の墓碑銘を読むなど、彼の根底に映っていた光景を思い浮かべながら、俳句が読まれたであろう地点で立ち止まり、その場所の雰囲気を感じることができます。つまり、丁寧な探訪記としても楽しむことができます。

 

 子規が結核に苦しんだの晩年にも関わらず、彼の活動的な姿や快活な人柄が描かれていることは、彼の強靭な精神力や文学への情熱が、そこには見えます。

 子規という人間の生涯を通じて、明治時代の日本文学の動向や俳句・短歌の革新に迫る内容と言えます。その詩句や俳句が五感を喚起し、時代の息吹や町の風景を描写する様子は、子規の世界への没入感を与えていると思います。


 子規は病に伏した時期でも五感をフルに働かせ、最期まで句や歌を作り続けました。著者は子規が耳を澄ませた音に注目し、子規の妹・律に対する辛辣さだけでなく、大切な母や妹が発する音や気配にも焦点を当てています。特に、律が碧梧桐夫婦と出かけて嬉しそうだったと喜ぶ子規のエピソードは印象的です。

 病に苦しみながらも、その精神力や情熱を失わなかった姿勢は、深く感動しました。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。

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