【最後の関門】 ハンガリー医学部の国試&卒試
毎年5月末から6月頭 (大学によって異なる) にかけて、6年生は卒業するための最後のテストを迎えます。
ハンガリーの医師国家試験にあたるThe Board Exam (筆記)と、大学の卒業試験にあたるThe Final Exam (口頭)の2つをパスする必要があります。
6年生は4月末にローテーションを終え、1か月ほどの準備期間を経てこの2つの試験に臨みます。
今回はこの2つのテストについてご紹介します。
The Board Exam -国試(筆記)-
2つの試験のうち筆記が先に行われます。日程は例年5月末で、選択問題180問を制限時間150分で解きます。
事前に公開されるクエスチョンバンクからそのまま出題されるため、日本の国試とは大きく異なります。
クエスチョンバンクは約4000問弱 (解答・解説付き) なので、極論これらを丸覚えすれば、合格自体はそれほど難しくないと言われています。
4月にローテーションの試験が終わってから、少なくとも1ヶ月半〜2ヶ月はこの国試の勉強に費やして臨む人が多いようです。
各科から出題され、メジャー科・マイナー科で出題数は異なります。例えばクエスチョンバンクに内科は約1500問弱あり、試験でも180問中50-60問ほどが内科です。
そこに小児科、外科、産婦人科などが続いて出題数が多いです。公衆衛生も出題率が高めなことで知られます。
合格のボーダーはその年の受験者の得点偏差値に基づいて決まりますが、7割とれれば安全圏とされています。また、日本の国試のような禁忌問題というカテゴリーはありません。
結果は翌日に発表され、得点に応じて5段階評価で合否がわかります。
The Final Exam -卒試(口頭)-
大学によって差があるようですが、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科などについて口頭で試験が行われます。
試験当日までどの科の病院で試験されるかは知らされず、また領域を跨いで質問されるため、つまるところ“なんでも聞かれる口頭試験”です。
トピックリストもないので具体的な対策をするのが難しく、各々に幅広く復習をして試験に臨みます。
試験にはPhysical Exmination(身体診察)も含まれていて、当日出向いた科の患者さん相手に行って評価されます。
とはいえ、Board Exam(筆記)と同じくそれほど難しい試験とは捉えられてはいません。
ただ筆記試験の点数を加味して合否が決められるとも言われており、年に何人かは不合格になります。
日本の医師国家試験との比較
先述の通りハンガリーの医師国家試験はクエスチョンバンクを丸暗記すればどうにかなる点で、難易度は日本の医師国家試験よりも低いと言えます。
私自身、両方の過去問に目を通しましたが日本の方が明らかに複雑な問題が多いと感じました。
ここまで読むと“ハンガリー医学部卒業生の質は…”と疑念が浮かぶかもしれませんが、当然ながら日本で働くにあたっては日本の医学生と同じく、日本の医師国家試験を合格する必要があることは付け加えておきたいです。
また海外医学部卒業生が日本の国試を受験するにあたっての資格なども標準化が進んでいます。
(詳しくはこちらのCBTとOSCEについての記事をご参照ください。)
EUの医師免許がもらえる?
晴れて卒試に合格するとEUの医師免許が取得できます。
大まかには、働きたい国の言語検定で一定レベル以上を達成すればEU各国でのジョブに応募できる、ということです。
国ごとに制度が大きく異なるので、行きたい国があれば早くからリサーチを始めておきましょう。
卒試のタイミングは1年に3回
実は国試&卒試を受けられるタイミングは年に3回あり、5月・8月・11月です。
大半(8-9割)は5月に国試&卒試を受けますが、5月末までに6年生の単位が取り終わらない、1回目の国試/卒試に落ちてもう一度受けなくてはいけないなど、8月と11月に受ける人の事情はさまざまです。
海外での病院実習の日程調整が合わなかった、という人もいるようです。
ただ、日本で働くためには日本の医師国家試験を受ける必要があり、諸々の準備の関係でハンガリー医学部を5月の卒試で合格しないとその年の受験には間に合いません。(厚労省への書類提出、日本語診断能力試験など)
8月・11月で卒業が決まると、日本の国試を受けるのは翌々年ということになります。
日本と異なり、研修を始める時期が一律4月ではない国も多いため、外国人は8月・11月に卒業してもそれほどギャップなく働けるようです。
卒業後の流れ
8-9割の卒業生は日本で働くために帰国し、病院とのマッチングと医師国家試験の準備を始めます。
7月末には厚労省に書類を提出する必要があるため、7月中旬には日本に帰国することになります。
日本の病院見学のために卒業式を終えたら6月中にすぐに帰国する人も多いです。
学生ビザの延長期限が卒業後1ヶ月ほどと決まっており、その間にはハンガリーから出国する必要があります。
日本に帰ってからは病院見学にマッチング、予備校通いや日本語診断能力試験など、国試までの半年ほどを忙しく過ごして行くことになります。
増えるキャリアパス
近年では卒後に日本ではなくドイツやイギリスで働いたり、そのままヨーロッパ内の大学院に進学するケースも増えてきているようです。
また卒後日本で数年働き、その後アメリカに渡った先輩も出てきています。
このように多彩なキャリアパスが今後も増えていくと予想されます。いつか追って記事にしたいと思っています。
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