見出し画像

夢から覚めたら 

◇◇ショートショート

今日もまた睡魔が襲う。香住(かすみ)は毎日午後三時頃になると睡魔に襲われてどうしようもなく眠くなるのだ。おやつを食べて気が緩むからなのか物凄く眠くなって、眠りに落ちたかと思うと驚くくらい鮮明な夢を見るのだ。

いつもとても好ましい夢で、覚めなければいいのにと思いつつ、夢から覚めてもその続きのような感覚で心地よく過ごせるのだ。目覚めてからも夢の中の出来事がそのまま続いているのかと思うくらいのリアリティーがある夢なのだ。

その日、香住は自分にとって好みがドンピシャの男性と出会っていた。それは夢の話だけれど、夢で出会ったその人は本当に素敵な人だった。
賑わっているショッピングモールで、香住は前からやって来る男性に釘付けになった。その人にスポットライトが当っているように彼の周りが輝いて見えた。

長身で足が長く顔が小さく、大きな瞳に高い鼻、色白で人気の韓流スターのような輝きを放っていた。

香住はほんの一瞬でその男性の虜になった。香住は躊躇なく彼の前に歩み出て男性に手を差し伸べた。何のてらいも無く、握手を求めたのだ。

するとその男性はにこやかな笑顔で香住を見ると、香住の手をぎゅっと握り返してくれた。彼女はこの手を離してはいけないと全身の力を込めて握っていた。

香住は思った。「これは神様の啓示だ、私はきっと彼と結ばれる運命なんだ」とだから彼女は一層強くその手を握っていた。

すると声が聞こえた「お前、どしたんぞ、さっきからずっと寝言を言いよったが大丈夫か」それはどこかで聞いたことがある声だった。
「香住、父さんの手を離さんか、父さんの手がちぎれてしまうが、いい加減に離してくれや」
その声を聞いて、香住は眠りから目覚めた。

そして、自分がしっかり握りしめていたのが父親の手だと分かると、どうしようもなく虚しい気持ちになった。

そしてこう言った。
「お父さん、夢の中のお父さんが、ベッドで苦しんでいたんよ、私はお父さんをこの世界に連れ戻そうとお父さんの手を握っとったんよ、お父さん夢で良かった」

その言葉を聞いてお父さんはうれし涙を流した。
「香住、お前が父さんの事をそんなに心配してくれとるとは思わんかった、夢にまで父さんが出てきたんか」
「そうよ、お父さん、夢の中のお父さんは若い頃のお父さんじゃったわい、お父さん元気で良かった」そう言うとお父さんの顔がさっきまで見ていたドンピシャのイケメンに変わった。

それはすべて香住の夢の中の出来事だった。

暫くして香住はおもむろに現実に引き戻された。
「私、今日もまた夢を見たんだ」香住は最近毎日そんな夢を見ている。

どこまでが夢でどこからが現実なのかなかなか区別がつかない夢なのだ。



最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。


また明日お会いしましょう。💗

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?