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初恋山の願い事

◇◇ショートショート

瀬戸内海に面した、海沿いの小学校の裏手に小高い山があります。
そこは昔から初恋山はつこいさんと呼ばれています。

頂上までの道中に、「えにしの木」と呼ばれている樹齢300年の大きな楠の木があります。その木に、結ばれたい相手の名前と自分の名前を相合い傘を書いて吊るすと、その人と結ばれると言われているのです。

小さい頃から初恋山を遊び場にしていたみのりは、大学生になるまで一度もパートナーが出来たことがありません。彼女はちょっと変わっていて、周りの友人たちが心ときめかせるイケメンには全く興味が無いのです。

「私ねー、今まで誰ともカップルになった事が無いから、一度くらいは気になる人と心を通わせてみたいなーと思ってるんだ」
みのりが幼馴染の咲子にそう話すと「そんなに真剣に思わなくっても、みのりちゃんならいつかきっといい相手が見つかるよ、心を通わせることだって出来ると思うよ」と優しく答えてくれます。

「私が咲子ちゃんみたいに誰とでも気兼ねなく話せる人だったらそうかも知れないけど、私にはそれは難し過ぎると思う・・・」みのりはなかなか心の内を打ち明けられない引っ込み思案なタイプなのです。

「みのりちゃん、もし今、少しでも気になる人がいるんだったら、初恋山に行ってお願いしてみたら」咲子にそう言われて、みのりは決心しました。

最近、みのりにはとても気になる人が現れました。ずっと身近にいたのにそれまでは気付くことがなかった人です。その人に思いを打ち明けてしまうとそれまでの関係が崩れてしまいそうで不安だったのです。

それでもみのりの相手への思いが日に日に大きくなり、どうしても自分の気持ちを伝えなければと、ある日みのりは決心しました。


「私、初恋山に願掛けしてみよう」そう思った途端に、みのりの心は何故か解放されました。


心を決めた日、みのりは大楠の枝に短冊をくくりつながらら、願いを込めました。
「私の気持ちを相手が快く受け止めてくれますように」みのりは何となく自分に自信が持てたような気がしました。
みのりが吊るした短冊には、意外な人の名前が書かれていました。


初恋山までの道中には、ピンクやグリーンの怪しげな光を放っている不思議な自動販売機が置いてあります。
そこで売られているのは変わったネーミングの飲み物です。
「エロスをプラス」
「らしさが爆発」
「優しさ充満」
「思いやりがぎっしり」
「笑顔で告白」
「本音がしゃべれる」などです。

みのりはその中から「本音がしゃべれるドリンク」を選びそこで一気に飲み干しました。

彼女は包み隠さず素直に自分の思いを伝えたいと思ったのです。

みのりは思いを打ち明けるために、相手を呼び出した場所に向かいました。目の前に海が広がる、見晴らしがいい駅のベンチです。

そこに座っていたのは、幼馴染の咲子でした。
みのりは意を決して咲子に声をかけます。

「咲子ちゃん、来てくれてありがとう、私どうしても伝えたいことがあるの」
咲子がみのりに言いました。
「みのりちゃんの相談なら何でものるよ、私はみのりちゃんの味方だからね」
「咲子ちゃんはずっと私を見てくれてたよね、どんな時も私を優しく励ましてくれた、咲子ちゃんがいたから私毎日が楽しかった、私最近になって分かったんだ、私は咲子ちゃんのことが好きだって・・・」

咲子はその言葉を聞いて、「みのりちゃんのこと私もとっても好きよ、それがどんな気持ちなのかはよく分からないけど、でもいつも気にしてるよ」

二人はその場で暫くの間、見つめ合っていました。


街の人たちは、初恋山に願い事をして、叶わなかった人は一人もいないと言っています。




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