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どうしてかスラスラ書ける

◇◇ショートショート

和子は最近、趣味で小説を書き始めました。彼女が書くのはミステリーです。

小さい頃、祖父の書斎にこっそり入ると不思議な空気が漂っていて、決して長くはいられないけれど妙に気になる空間でした。

その部屋は壁際が本棚になっていて沢山の本がぎっしり並べられていて、そのほとんどがミステリー小説でした。祖父は若い頃からミステリー小説が好きだったのです。

和子は母から特別なことが無ければ書斎には入ってはいけないと言われていました。祖父から入室禁止のお達しがあったのです。それにもかかわらず和子はその部屋に出入りしていました。

毎月一回、忙しい祖父が会合に出掛ける日がありました。その日に合わせて和子は部屋にこっそり入って、まとめて数冊持ち出しては小説を読みあさっていたのです。

祖父は会社の役員をしていてとてもお洒落な人で、出掛けるときはダブルのスーツでビシッと決めて、映画ボルサリーノのアランドロンのようなハットを被っていました。

和子はかっこよくて、クールで神経質な祖父を「何だか不思議で魅力的なおじいちゃん、ちょっぴり憧れてるんだけど怖くて、話すのはおっかない」そんな風に思っていて、なかなか自分から話す事ができませんでした。

祖父は自宅に帰ると書斎に籠って何時間も出てきません。和子がある日、部屋を覗くと祖父はかなりビックリした様子で、ペンを置いて
「おー、和子なんだ、お前書斎には入るなって言ってただろう」

「おじいちゃんごめんなさい、私、鉛筆がないかなーと思って」ととっさに考えついた嘘を言うと「和子、ここには鉛筆はないぞ、書くものがいるんか、ならこれをやろう」とそれまで使っていたシルバーの万年筆を渡されました。

「おじいちゃん、これ、すごいねー、シルバーの万年筆、かっこいいこんな上等なんええのー」

「これは書き味がいいぞー、和子、今日はタイミングが良かったな、お前にやるよ、和子がきちんと字を書こうと思った時に使うといい、驚くくらいスラスラ書けるぞ」

「うん、私にはもったいないから、もっと大きくなってから使うよ、ありがとう」

「その万年筆には俺の魂が入ってるからな、特別なプレゼントじゃ」

和子は何だか嬉しくなってもらった万年筆を手に部屋を出ました。

おじいさんから貰ったシルバーの万年筆は和子にとって秘密の宝物になりました。


それから10年の歳月が流れました。

和子は小説をパソコンで書いていますが、物語がいっこうに書き進まない時に「そうだ、おじいさんから貰った宝物で書いてみよう、あのシルバーの万年筆で」そう思いついて、長らくしまい込んでいた宝物の万年筆を取り出して書き始めてみると、物語が嘘のようにスラスラと書けました。

和子にとって、その万年筆は、救いの神のようでした。その日からおじいさんに貰った万年筆は小説を書く時の和子にとって手離せないものになりました。

そのシルバーの万年筆を手に取ってじっくり見ていると、蓋の所に小さく文字が彫られていました。乱遊らんゆうと書かれています。

不思議に思って、母にシルバーの万年筆の話をすると、こう教えてくれました。「おじいさん実は作家になりたくてね、若い頃から人知れず小説を書いていたんだけど、家族の反対と家業を継がなくてはいけない使命があって、やむおえず諦めたの、それでも忙しい仕事の合間にこっそり小説を書いていたみたい、本人が納得できるものは完成しなかったらしいんだけど・・・」と。

おじいさんが小説を書いていたという話を聞いたのは初めてでした。

「お母さん、おじいさんの好きな作家は誰だったの」

「江戸川乱歩が好きでね、おじいさん乱遊らんゆうって言うペンネームを使ってたのよ」

和子は合点がいきました。

おじいさんの形見の万年筆で和子が小説を書くことは書きたくて仕方がなかったおじいさんと一緒に書いていると言うことなのだと気づいたのです。

「だからこの万年筆を持つと、スラスラと小説が書けるんだ」和子はおじいさんの形見のシルバーの万年筆からエネルギーを貰って、小説家を目指そうと心に決めました。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《気持ちの問題よね、気持ちは大事》


リビングでお昼ごはんを食べた後のばあはと。

万年筆におじいさんの執念が乗り移っとんじゃねー、和子さん上手に書けるじゃろ」

「このストーリーはどうですか」

「よかったよ、スラスラと書けた言うんが印象深かった、それは気持ちの問題じゃね、気持ちは大事、自信を持つんは大切なんよ

「お母さんはー」

「私は自信じゃなく、努力、自信も過剰なんはダメよ

私にも手にすると、スラスラ書けるペンがあるといいのですが・・・。


【ばあばの俳句】


アイディアの浮かばぬままに暮るる秋


まさに私の苦悩する様子を母が詠みました。時折次は何を書こうかなとnoteの投稿のテーマに悩んでいる姿そのままです。

順調に浮かぶ時もあれば、中々いいアイディアが生まれない時は機嫌が悪くなっているようです。やはり毎日投稿となると本当に悩み、決まるとほっとします


最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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