ホタルブクロとゆきちゃん
◇◇ショートショートストーリー
「ほー、ほー、ほたるこい」「あっちの水はあーまいぞー、こっちの水はかーらいぞー」幼馴染みのゆきちゃんと倫君は小さい頃から仲良しで、いつも一緒に遊んでいました。
二人が育ったのは、愛媛県の中山町、緑いっぱいの穏やかな町です。六月の後半になると、町の中山川やその支流の川沿いには、ホタルが姿を見せていて、近所の友達と一緒に、ホタルを見に出掛けていました。
ゆきちゃんは大きな源氏蛍を手でそーっと捕まえて、ホタルブクロと言う白い鐘状の花の中に入れます。
「倫君、見てや、この不思議な光、私はこの花の中のホタルの光が大好きなんよ」
「ゆきちゃんは何か大人っぽいなー、俺はそのまんまの光が好きよ」
「最近都会ではホタルがあんまり見られんのじゃと、お母さんが言よったけど、川が汚染されて、餌が死ぬし、川の護岸工事で、ホタルが住む草むらなんが、無くなりよるけんじゃと」
「ゆきちゃんは、よう知っとるねー」
残念なことに、それから二年後には、中山町でもホタルの姿が見られなくなってしまいました。
ゆきちゃんが、お父さんの仕事の都合で都会に行くことになって、転校したのは丁度その頃です。
倫君は、ゆきちゃんが居なくなって初めて、ゆきちゃんが自分にとって幼馴染以上に大切な存在だったこと分かりました。
倫君は、ホタルのシーズンになると毎年ゆきちゃんのことを思い出します。川原でホタルブクロに入れた柔らかなホタルの光に照らされたゆきちゃんの少し大人っぽい笑顔が浮かんでくるのです。
❀❀❀
中山町で、ホタルが見られなくなってから13年が経ちました。
25歳になった倫君は、農業を営むお父さんの後を継いで、地元で頑張っていました。若者たちのリーダーとして地域のために様々な活動をしていましたが、倫君が一番力を入れていたのはホタルの復活です。
川の護岸工事を少なくする運動を始めて、ホタルの幼虫を育てて放流をしたり、川の掃除をしたりと、ホタルが再び戻って来るように頑張っていました。
「おい倫、お前ホントに頑張るなー」とお父さんが感心していると倫君は、「父ちゃん、ホタルが戻ったらうれしかろー、地域の人もみんな喜ぶじゃろ」そう言いながら倫君は、またゆきちゃんの顔を思い出していました。
そして、翌年の夏、倫君たちの努力でホタルがやっと川に戻り、久しぶりに「ホタル祭」が開催されることになりました。その日は都会からもホタルを見に沢山の人がやって来ました。
あちらこちらで点滅するホタルの柔らかな光を見つめていた倫君は、思わず息をのみました。そこにはあの大人っぽい笑顔のゆきちゃんの姿があったのです。
「倫君、ホタルはやっぱりええねー」
「ゆきちゃん、どしたん、びくっりしたがねー」
「倫君が頑張っとったんは知っとったんよー、ホタルが帰ってきたら見に来たいと思とったんよ」
倫君は子どもの頃よりもずっと大人っぽくなったゆきちゃんの姿を見て、頬がぽっと赤くなりました。
倫君は心の中で呟きました。「ゆきちゃんホタルより輝いとるわ」
二人は幼い頃に戻って、思い出の川原でやさしいホタルの光をずっと眺めていました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《都会の人は今、ホタルどころじゃないわい》
朝ごはんにトウモロコシを頂いた後のばあばとの会話です。
「私は、俳句の会でよう見に行ったんよ、町中ではなかなか見られんけんねー、最近はホタルを見る余裕がない人も多いわい」
「お母さん、ショートショートストーリーは」
「人の思い出のきっかけは様々じゃけど、ホタルは情緒があらいねー、今は都会の人は本当にホタルどころじゃないわい」
そうですね、ホタルの光を楽しむ心のゆとりを早く持てる状況になって欲しいですね。
【ばあばの俳句】
軽やかなドレスも嬉し夏の午後
母の希望的な光景をイラストに描きました。夏の涼しげなワンピースを着て、街中にお出かけです。最近お出かけするのもままならず、自宅に籠っているのがうんざりなんだと思います。
風を感じるワンピースがとっても素敵に描けていると思います。母の気分のいい日にお出かけしたいと思います。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
たくさんの記事の中から、「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただきありがとうございます。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗
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