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【読書感想文】最後を見届けることこそ、まちづくりである?

久々に

私の部屋にある積読コーナーに結構未読本が溜まってきたので、少しずつ吐き出したいと思います。

今回は、朝日出版選書から2021年に刊行された「ごみ収集とまちづくり 清掃の現場から考える地方自治」を取り上げまず。

著者は地方自治、行政学などが専門の藤井誠一郎氏。立教大学コミュニティ福祉学部准教授(執筆当時は大東文化大学法学部准教授)をされている方です。

本の構成

全部で8章構成です。

はじめに
第1章:大都市の清掃事業
第2章:清掃の現場
第3章:行政改革と今後の清掃事業
第4章:コロナと清掃行政
第5章:感謝の手紙と清掃差別
第6章:清掃現場と女性の活躍
第7章:住民参加と協働による繁華街の美化
第8章:事業系廃棄物と産業廃棄物業界のDX
おわりに  

この本では藤井氏がコロナ渦での清掃労働体験、繁華街での参与観察、つまりフィールドワークを通しての知見がまとめられています。

自分のまちがごみの山になっていない奇跡

日本国内に住んでいて、基本的に家庭ごみの山になっていないのはなぜか? それは、自治体が行うごみ処理が円滑に行われているからです。

しかし、

そもそも、家庭ごみはどのように処理されているのか?

このあたりは、お住いの地域により実情は異なると思うので、一度確認されるとよいかと思います。

では、

何かの拍子に家庭ごみの処理の枠組みが崩壊するとどうなるか?

災害、感染症流行などが発生したときに、ごみ処理できるかどうかは、まさに死活問題です。

そのような問題に対し、本書では、東京都北区で実際に働く清掃職員(現業の公務員)のフィールドワークを通じて

  • 過酷な清掃職員の現状

  • 行政改革と清掃行政

  • 非常時における清掃行政

  • 清掃現場での女性活躍

などが論じられています。

その中でも、本書で示されているように、清掃行政のあり方というのは、持続可能な社会という面からも危機にあると感じます。

ここから東京都中野区のホームページを引用しながら続けますが↓

自治体職員である清掃職がエッセンシャルワーカーとして機能してくれているおかげで、家庭ごみが円滑に処理され、私たちの公衆衛生が確保されます。

ただ、近年ではどこの自治体でも税収不足であったり、行政改革だったりのため、人件費をはじめとする経費削減が行われています。清掃行政においても、自治体の清掃職ではなく、民間事業者によるアウトソーシングで経費削減を行わざるを得ないケースも多々あります。

ただ、官であろうと、民であろうと、一定期間以上の習熟が必要な清掃業務を行える職員を確保し、かつ、技術を継承していくことは必要ですが、実際には困難になりつつあります。

加えて、超高齢化社会であっても、また、自然災害があっても、またコロナ禍であっても、家庭ごみ処理の停滞は許されません。

これらを踏まえ、単に机上の綺麗ごとではなく、ごみ処理は自分の問題、ならばどう考えれば解決し得るか?が強く求められていると感じました。

地域の課題をみんなで解決していく姿勢

新宿二丁目のような歓楽街でも、毎日のようにごみは出てきます。

歓楽街からの廃棄物は、形状だけみれば、ほぼ家庭ごみと変わりませんが、事業活動に伴って生じるごみ(事業ごみ)であり、事業者(この場合は飲食業など)が適切に処理せねばなりません。

ただし、新宿二丁目の特性と言いますか、LGBTという多様性によるものなのか。2016年からに藤井氏が調査したところ、地域のルールに従うことができない不届きものも散見していました。

そんな中で立ち上がったのは、新宿二丁目という環境で育ち、家業である不動産業を継いだ二村孝光氏。

二村氏は、

  • 行政を巻き込みつつ、地域の飲食街のママたちを巻き込みつつ、

  • 世界一綺麗な繁華街を目指す「二丁目海さくら」による美化活動を行ったり、

  • 日曜日にごみ回収をしてくれる民間業者に相談したり、

  • 区議会議員とも問題を共有したり、

などを通じて、地域の環境美化だけでなく、事業ごみの適正処理に道筋をつけました。

本事例のように、地域の問題を、地域のステークホルダーが集まり、地域で知恵を出して解決していくのが本来の地方自治ではないかと考えさせられました。そこには、単に権利や主張を声高にするのではなく、理性的に取り組む…この行為が人類の知恵の力を感じました。

ちなみに、二丁目海さくらの活動については、日本能率協会コンサルティング様も記事にしていますので、そちらもご覧ください↓


異分子を入れていく度量

新任職員

まずは清掃職の新任職員について。

これは先に述べたこととも被るのですが、定期的に新人を入れないと、技術継承が困難になります。加えて、業務がマンネリ化するだけでなく、職員一人一人のモチベーションにも影響します。

中野区のように、中野が好きでそのまちの職員になりたいという若者をどこまで呼び込めるか? 人手不足が叫ばれている中で悩ましい問題だと思います。

女性活用

次に、清掃職の女性活用について。

どうしても清掃職≒男性のイメージが付きまといます。

本書では東京都大田区の事例が紹介されていました。

女性職員の気配り(≠遠慮)の部分もありますが、周りの男性職員がより清潔感が増したり、いわゆる縦社会的文化が薄れたりしたそうです。

今回はフィールドワークによる論考ですが、現代にマッチする清掃職の働き方以外の面からも考えさせられるものでした。

DX化

最後にごみ処理におけるDX化について。

本書では白井エコセンターの事例が紹介されていました。

事業ごみを排出する側からすると、

①ごみの処理委託契約が大変
②特に産業廃棄物に関しては関係する帳簿なり、行政への報告が大変

というややこしさがあります。制度上はそんな愚痴は通用しないんですけどね。

ただ、契約事務の自動化であったり、ごみ収集の配車をAIで行ったりなどで、コストは削減でき、本来業務に専念できる環境になるのは、良いことです。もしかすると、DX化の過程で、新たな産業のシーズになるかもしれんと思うようになりました。

なお、白井エコセンターについては、pirafu様が記事にしてくださってます↓

また、兵庫県西宮市の西神清掃様の記事もゴミ収集とDX化を考える参考になると思います↓

綺麗事だけではすまない

人間が生活していく上で、ごみ問題を切り離して考えることはできません。

ごみが適切に処理されなければ、快適な生活はできない…とはいえ、自分の手から離れた"いらないもの"について思いを馳せるのは面倒くさいというのが本音でしょう。

ただ、ごみ問題は身近であり、かつ、結構脆弱な基盤で均衡が取れている点を理解できます。その前提で、自分たちに何ができるのか、何をすべきかを考えさせるキッカケをくれたのが本書だと私は感じました。

一度、みなさまの頭の中で考えてみてください…SDGsといわれている中での、身近なごみ問題とは?

(了)

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