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【詩】ぼくはゆうれい

ゆうれい船が宵のなかをすすむ。ことばもかなしみも柔らかな雨がつつむ。黒鍵の空染みひとつなくななめにほそい線がはしる。消え入りたいゆうれいたちが夜の街をさまよう。行き場をなくしたゆうれいたち。影がなく奪われたそんざい。ぼくは目を伏せる。光るビルに向けて手を天にかざす。向こうがわが透けている。ぼくもゆうれい。じきに記憶をなくして蒸発する。大事なことを忘れてしまう。やりたいことも忘れてしまう。刹那のじかんおのれを去るまでの発見はじぶんのめに映ったもの出会ったひともらったことば原初のきおくがあざやかによみがえること。瑞々しい色絵の具がはじけること。さいごにあたまの中に砂がまじる。エラーメッセージ。初期出荷状態に戻る前きみの顔が浮かぶ。泡のように沸々と湧くかんじょうがぼくを毒す。きみのこともっと知りたかったきみのかなしみを何パーセントかでも理解したかった一緒に声をあげて泣きたかった。ぼくはぼく自身を軽蔑しながらすすむ。消化できなくてもゆっくり溶かすべつのものに変換する。ゆうれい船が帆を張る。航海の無事をいのる。ゆうれいのぼくはどこに向かう。



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