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最高の余生のための理想の土地【#5家にまつわるストーリー】

2016年の3月に⬇この家がリスト価格の満額で売れてしまいました。

売ったときの担当リアルター(不動産屋)が市内に借家を所有していたので、家を受け渡した後はしばらくその家を借りることにしました。

借家に暮らすのは2001年米国移住当初のアパート暮らし以来15年ぶりです。借りることになった家は市内ダウンタウンのど真ん中です。ダウンタウン界隈は昔から栄えていたからか、古い家が多く借りた家も築100年以上の家でした。

ロケーションは便利ですが、これまでの家に比べればかなり年季の入った家でした。日本的にいうと、建坪約57坪ほどで庭付き、2台分のガレージ、4ベッドルーム、2フルバスにリビングルーム、ダイニングルーム+サンルームなので、大きさ的にはじゅうぶんで家賃は$1100でした。

どのみち、次の家までの“繋ぎ”なので、贅沢は言えません。

それどころか、わたしとしては久々の借家で、家のメンテナンスの心配が要らないことにわくわくしていました。家に不具合が出ても大家さんに電話するだけですみます。おまけに、芝刈りも家賃に含まれているのでこれまでのように、広大な庭の芝刈りで汗だくになることもありません。

それまで、家の管理に捧げていた“マイタイム“を本来のマイタイムとして使えると思うと、借家暮らしも悪くないと内心ニンマリしていました。なにより、日本に帰国したり、旅に出たりと留守をするときにも持ち家ほど真剣に心配することなく家を空けられます。高いハウスタックスも要りません。

一方、夫は「こんなボロ屋に住んでいてはいけないので、早くここを抜け出さなければ」と言うのが口癖になっていきました。

それこそ米国ではライフステージに合わせて家を変えるので、子どもたちが巣立ったあとには、サイズダウンしていく人も多いのです。ところが、夫はまだまだ進み続けるつもりです。

前進しようとする夫と、留まっていてもいいんじゃない?と思っているわたしでしたが、それでも毎日のようにリアルターのサイトを眺める日々が続きました。夫の一番の理想は自分で設計した家を郊外に建てることでしたが、土地を購入して新築を建てるのには、頭クラクラするほどの時間とエネルギーが要ります。建てることは買うことより資金調達も困難です。

それでも、決めたらとにかく突き進むおっさんです。

またまた、日本で田舎に家を建てようと決めて、毎日田舎にドライブしたころのように、仕事に通える範囲内で売り出されている土地を見つけては夫婦でドライブしました。

「人って基本変わらないものねぇ」

なんて心の中で思いながらドライブに付き合いました。

ところが、なかなか理想の土地はみつかるものではありませんでした。

そもそも米国の場合、家が建つような場所だとサブディビジョンと呼ばれる戸建て用の分譲地がほとんどです。夫が理想としているのは、市内から近い田舎で、プライバシー確保に隣近所と距離を取りたいので、土地面積は10エーカーはほしいといいます。(ちなみに東京ドームは11.5エーカーです)

もっとも、わたしの住むミシガン州の田舎ではあり得ないほど珍しいことではなく、実際わたしの日本人の知人の家も10エーカーの敷地です。

南側に窓のあるリビングルームを作りたいから、道路は北側に走っている土地じゃないとダメ、東西に長い土地はダメ、洪水の被害を考えて近くに川があってはいけない、地面が道路よりも高い土地じゃないといけない、うるさいから線路が近くにあってはいけないとか……夫が頭に描いているドリーム・ホームを建てる土地の地形にはあれこれうるさいこと、うるさいこと。

「そんなこと言っていたら、たぶん一生みつからないわよ」と冷たくわたしに笑われていたのでした。

そんな土地探しドライブを続けた中で、第一候補の土地は、市内ダウンタウンから車でほんの 十数分の田舎の土地です。道路は北側に通っており、面積は約7エーカー弱。売りに出ている中では、概ね夫の条件をクリアしていたのですが値がはるのと、買い直しがきかないと思うと慎重になるのとで、即買い!とまでは踏み切れずに迷っていました。

リアルターにだけは、「あの土地に動きがあれば教えてね」っと伝えてありました。

ちょうどわたしが日本に1ヶ月単身帰国していたときに、リアルターからわたしのスマホにメッセージが届きました。

「あの土地が売れそうだけどまだ興味ある?」

すぐに夫に報告しました。

売れてしまうかもしれないと思うと、がぜん「この物件を取り逃がしてはいけない」モードになり速攻リアルターに連絡し満額でキャッシュで買うと伝えて売買契約成立。わたしが米国に戻ってすぐに登記しその土地は2018年12月にわたしたち夫婦所有の土地となりました。

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【建築会社の人と道のないような道を上りながら打ち合わせ中】

さて、土地が決まったのであとは家を建てるだけです。

ところが、家こそ簡単に建て直しはできないので難解です。夫は人生最終章を過ごす自分の夢の家をあーでもない、こーでもないと、毎日毎日、図面を描き続け、見積もりをお願いし、予算オーバーしては妥協を余儀なくされて削ってみたりという日々を過ごしました。

描いては書き直し、描いては書き直しの図面は段ボール箱に何箱もたまっていくほどでした。そのプロセスも夫にとっては、楽しかったのかもしれませんが、わたしから見ると、どうみても図面とにらめっこしてはしかめ面しているように見えました。

理想の家にするために、頭割れそうなぐらい脳みそを使っていたようです。一方、わたしはもともと、家に対して特別な拘りもないのと、できあがっている夫の理想をわたしのために変更するつもりなどさらさらないことを知っていたので、黙って見ていました。

ほしい部屋数を言って、配置を伝えて、プロに適当にデザインしてもらってさっさと建てるとか、ある程度理想に近い既存のデザインから選んで妥協すれば簡単だったのでしょうが、夫の場合は「妥協しないために建てたい」わけで、楽を得るための妥協を許しませんでした。

最後まで自分の頭に描いたドリームホームにこだわり続けました。

自分が思ったとおりの部屋の大きさ、配置、天井の高さ、ドアの種類、キッチンレイアウト、地下室、ガレージ、キャビネット……ホームセンターに行って、資材や工法の勉強してみたり、リサーチしたり、デザインを変えてみたりと、拘り半端なし。

前からわかってはいたけど、「凡人じゃない」と改めて確定!!です。

請け負ってくれた建築会社のセールスマネージャーのジェフは、「彼の才能には脱帽だよ。最高に“拘りのある”カスタムホームになりそうだよ」とわたしに向かって苦笑いしていたほどです。

忍耐強いジェフのおかげで、夫の理想を全部盛り込んだ図面ができあがり、見積もりにも合意し、夫のドリームホーム建築の契約書にサインをしました。土地購入から1年が経っていました。

2019年カウントダウンパーティの夜には、そこにいたみーんなに

「来年のカウントダウンは新しい家で迎えられる予定だからな。みんな楽しみにしていろよ」

図面を見せびらかしながら笑顔で発表したのでした。

さて、年があけたら夫のドリームホーム着工です。

予定通りいけば夏前には引っ越しできるはずでした。

ところが……

【#6家にまつわるストーリー】に続く


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