シニア世代の新たな挑戦:佐世保で生まれた革新的キャンプサービス「ぷらキャン」
佐世保の魅力とキャンプの楽しさを多くの人に知ってもらいたい。
そんな思いからキャンプギアをレンタルしガイドをする、旅行業を始めた人がいます。ぷらキャンの代表、森永博昭さんです。
佐世保の魅力を発信するビジネスの1つとして、ぜひみんなに知っていただきたいと思い、森永さんにインタビューを申し込みました。
森永さんが旅行業を開始したのは、2019年2月。いよいよビジネスを展開するぞ!と決意する矢先、新型コロナ感染症のために販路が立たれてしまいました。
そんなピンチを乗り越え、自分の大好きなキャンプの事業を興すまでの話を伺いました。
3つの柱:ECサイト、卸売業、そしてぷらキャン
やえの:森永さんの事業について教えてください。
森永:主に3つあります。
1つはECサイトの運営です。モール型サイトや自社サイトで地元の特産品などを販売しています。地元の物産の中でも、品質の高いものを厳選して販売するようにしています。今は平戸のいのしし肉、カーネーション、世知原(せちばる)茶などが主です。今取扱い商品をさらに増やしていこうと探しているところです。
生産者と消費者の直接的なコミュニケーションが取れるのがECサイトのよいところです。購入された方からいただいたレビューは、生産者の方々と共有し、商品やサービスの改善に活かしています。
2つ目は平戸いのしし肉の卸売業です。
これはBtoB事業で、全国の飲食店と取引を行っています。
ECサイトといのししの卸売業は合同会社として運営を行っていて、会社の運営自体はスタッフに任せています。今はアドバイザーとして関わっています。
3つ目がキャンプのケータリングサービス、ぷらキャンです。
テントなどキャンプギアを貸し出して、設営、片付け、ガイドなどをするサービスです。
ぷらキャンはキャンプをしたくてもできなかった人たちをターゲットにしています。たとえばシングルマザーや女性だけの団体、カップルなどに利用されています。先日は上海からのお客さんもいましたよ。「綺麗な海を孫に見せてあげたい」と3世代でご利用いただきました。
旅行業で開業と同時に感染症拡大
やえの:複数の事業をされていますが、開業の経緯について教えていただけますか?
わたしは佐世保市役所で市の職員として38年勤務しました。定年退職後、佐世保市産業支援センター(VSIDE)の産業コーディネーターの委託業務(4か月)を経て、2020(令和2)年に旅行業を始めました。
わたしが旅行業でしたかったことは、佐世保を訪れる人、とくにクルーズ船でやって来るお客様を対象にした、ご当地ツアーを作ることでした。
しかしながら、クルーズ船でたくさんのお客様が佐世保に来ても、大型バスで市外へ流れてしまう現状がありました。中国からのお客様の多くは市外の免税店などに行ってしまうんですよ。
せっかく佐世保の港に寄港しても、佐世保を素通りしてしまう。佐世保には素敵な観光資源がたくさんありますし、お金を落としていってもらいたい。そのためのご当地ツアーを作ろうと思い、旅行業の資格を取りました。
やえの:しかし、新型コロナがやってきた。
森永:そうなんです。2020年2月19日に開業したのですが、まさに新型コロナ感染症が日本で広がり始めた時期なんです。それでクルーズ船が一隻もこなくなった。その後、3年間は一隻もこない状況でした。
現役時代の経験を活かしEC事業へ
やえの:旅行業がまったくできない状況下で、森永さんはどうされたのですか?
森永:急遽、同じ年の4月にはECサイトを立ち上げました。西九州させぼ地域商社という会社名で地域の物産を販売することにしました。自社サイトだけでなく、楽天市場やYahoo!ショッピングなどで販売をしたのですが、巣ごもり需要もあったため、それなりに売れましたよ。
や:なぜEC事業にシフトチェンジできたのですか?
森永:現役時代に、ふるさと納税事業の経験があったからです。
10年ほど前の観光物産振興局長の時、わたしはふるさと納税を活用して、地域の物産をアピールするべきだと市長に掛け合いました。
そして、自分の部長室にふるさと納税推進室を設置して、商品開発から、撮影、カタログ作り、受注発注システム作り、広告運用などすべて自分たちでやったんです。ふるさと納税は、ある程度年齢を重ねた高所得層がターゲットでしたので、Facebookを使ってターゲットを絞り込み、ABテストも行いながら予算が限られる中PRを図りました。
それこそ血反吐を吐くような思いでやっていました(笑)。
その時にさまざまなノウハウを取得したので、EC事業を始めることは、さほど大変ではなかったんです。
ぷらキャン誕生:佐世保の自然を誰もが楽しめるサービスへ
や:ぷらキャンのサービスを始めた経緯について教えてください。
森永:最初にお話ししたように、もともと旅行業がしたかったわけですが、新型コロナが終息すると団体旅行から個人旅行へシフトするだろうとわたしは考えました。とはいえ今は、オーバーツーリズムや団体客が反動で押し寄せている状態ですけれど。
新型コロナが流行した時、キャンプブームもありましたが、わたし自身はキャンプが大好きで、若い頃は一年に50泊以上したこともあります。そこで、With コロナ時代の旅行形態として「ぷらキャン」を企画しました。ぷらキャンは、密を避けて非日常空間への旅をしたい、アウトドア初心者をターゲットにしています。
や:好きをビジネスにされたんですね。
子どもが小さい時は家族で週末になる度にキャンプにいそしんだものでした。夏休みには、テントを車に積み込んで3週間北海道を旅したこともあります。
定年をむかえ、孫とキャンプをしたいと思い、キャンプギアを揃えようと見積もりをしたんです。そしたら85万円以上になりました。年間4回行くとして、孫が中学校に上がるまでは約7年。1泊3万円の計算になりました。
そしたら奥さんに釘を刺されたんですね。
「あなた生きている間に何回キャンプに行くの?それだけ高いなら2人で温泉旅行に行けるわね」って。
そこで、買い揃えたキャンプギアを貸し出しながらキャンプの魅力を発信する旅行業を思いつきました。ビジネスコンテストでは、SDGsを意識し「シェアリングエコノミー※」 のプランとして提案しています。
※個人が所有しているモノや場所、スキルなどを必要な人に提供したり、共有したりする経済活動のこと。
コミュニティビジネスとしてのぷらキャン
森永:
理由としては、これまでキャンプに行けないとあきらめていた人たちがキャンプに行けるようになるからです。自分たちで行ける方は自分たちで揃えてキャンプに行けるわけです。わたしが提供するぷらキャンはそういう方をターゲットにしていません。むしろ「行きたくても行けなかった人たち」に気軽にキャンプを楽しんでもらうためのサービスです。
利用者を見ると、出口さんのように母子または父子キャンプが多い状況です。「子どもに自然体験をさせてあげたい。でもシングルだから連れていけないとあきらめていた。」という利用者もいらっしゃいました。ほかにもスポンサーはおばあちゃんで、おかあさん、お子さんという3世代のお客様もいらっしゃいました。
やえの:まさに「時間が無い、ノウハウがない」とこれまでキャンプをしたくてもあきらめていた人たちに届くサービスだと思います。
森永:はい、そうやってキャンプのすそ野が広がるといいなと思っています。キャンプの魅力は、脳をゆったりと休めるところにあると思うんです。自然に触れ、焚火のゆらめきをぼーっと見ると不思議と心が休まる。体が休まるというより脳が休まる感覚があります。そういうのを多くの人に体験してもらいたいと考えています。
もう一つは地元のキャンプ場とその周辺の活性化です。
佐世保市には本当に素敵なキャンプ場があります。管理も行き届いているし、景色も最高です。
長串山キャンプ場は夕日が綺麗です。白岳キャンプ場は山の上なので星空を楽しめる。白浜キャンプは海のすぐそばで泳ぎや磯遊びができるし、波の音に癒やされます。中央公園のキャンプ場は繁華街に隣接した、とても珍しいキャンプ場です。こういった佐世保のキャンプ場をどんどん使ってもらえるようになれば嬉しいですね。
キャンプ場周辺には農産物直売所があり地域の旬の食材を購入できます。キャンプ場周辺の施設の利用によって周辺地域の活性化にもつながると思います。
そしてシルバー世代の活躍の場としての存在です。
企画当初、シルバー人材センターに登録されている人にお手伝いしていただき、一緒に設営とキャンプのガイドをしてもらおうと考えていました。しかし、それがとても難しかったんです。
ぷらキャンはキャンプギアを貸し出すだけのレンタルサービスと違い、旅行業の1つの体験プログラムとして位置づけています。そのため、キャンプを楽しんでもらうためのお客さんとのコミュニケーションが欠かせません。これにはスタッフの教育が必要ですし、接客のスキルも必要になります。逆にキャンプが大好きという人も難しい。こだわりがありすぎるとおもてなしが書けることにつながりかねません。
体験プログラムのオペレーションがまだ確立していない状況ですが、シルバーの人材はこれから増加してくるので、活躍の場としてぷらキャンを活用できるようにしたいというのが願いです。
地域の魅力を発信するビジネスを
や:これからについて教えてください。
森永:まだまだこのぷらキャンのサービスがまだ知られていないのでもっと広がるといいなと思っています。全国的に見てもまだビジネスとして確立している事例は見受けられません。
最近四国の方から「同じようなサービスをやりたい」とご相談がありました。他地域でご相談があればナレッジは共有していけたらと思っています。
正直言うとまだまだ収益があがらない状況で、今は導入したキャンプギアを償却しているような状況です。1人でやるのも限界があるので、自分のコピーが欲しいですね。できればチームを組んでやっていきたいという思いがあります。
やえの:ぷらキャンのサービスが広がるといいですね。
森永:体が動くまで、そしてキャンプの魅力を伝えることができるまで続けたい。そして承継してくれる人が要れば譲って続けていって欲しいです。
とにかくわたし自身は、佐世保の魅力、広く西九州エリアの地域の魅力が発信していきたい。そういう思いで活動をしています。
退職後の挑戦を支える、公務員時代の経験と家族の力
森永さんのプロフィールを拝見すると、驚くほどの実績があられました。佐世保市のさまざまな事業に携わられていて、わたしの中の「公務員は代わり映えのない仕事」というイメージががらっと変わりました。佐世保市役所というある種企業の中で、さまざまなビジネスを興してきた、まさにビジネスパーソンでした。そしてその現役時代のさまざまな経験が定年後の今の森永さんを支えていると言えます。
そして何よりもそんな森永さんを応援しているのが奥様。「僕は仕事ばかりで子育ては奥さんに任せっきりだった」と話していた森永さん。孫育てをしてつくづく奥様の大変さをかみしめているとおっしゃっていました。「今思えば、どうやって子ども3人の世話を一人でしていたんだろうと思う」と話されていましたが、多分、奥様は覚えていないと思います(わたしもそうだったから)。
あまりにも高額になったキャンプギアを前に「あなた、これ仕事にすればいいじゃない」と助言してくれたのも奥様。そしてテント設営や撤収も奥様はお手の物。「僕より早くてうまいんだよ。キャンプは嫌いだけどね。」
決して一緒に楽しむわけではないし、むしろイヤイヤ付き合わされている感もあるけれど、それでも確実に森永さんのやりたいことをサポートされています。「偉人の後ろには偉大な女性がいる」というのはこういうことか!などと思ってしまいました(内助の功とはいいたくないのです)。
いずれにしても、森永さんのように現役時代の経験を活かし、退職後もフットワーク軽く活躍するシニアが増えていって欲しいと願います。シニアを含め、わたしたち大人が元気なら子どもたちは未来に希望を持てる。そんな気がするからです。
リンクまとめ
森永さんの「ぷらキャン」はこちらから申し込み可能です。
また料理やガイド付きのサービスは佐世保コンベンションセンターのサイトからお申し込みみください。
「西九州させぼ地域商社」楽天市場サイトはこちら
平戸いのししブロック肉販売サイト「猪商」はこちら(卸売用)
ぷらキャンの体験記事はこちらから。たくさんの方に見ていただきました。