yae.y

平日は図書館に居ます。実話を元にしたエッセイと小説と詩の間のようなものを書いています。…

yae.y

平日は図書館に居ます。実話を元にしたエッセイと小説と詩の間のようなものを書いています。noteはネタ帳がてら。連絡取りたい方はX:@KYa631まで。 ※他の所での執筆のため、現在noteの更新は休止中です。再開まで気長にお待ちください※

マガジン

  • 惜しからざりし命さへ

    今まで書いたエッセイ、もしくは実話を元にした何かしら。

最近の記事

  • 固定された記事

メンヘラ図書館員が婚活マッチングアプリを始めて考えたこと

始めるきっかけは、私の育ての親の発狂だった。 血の繋がりもない私たち姉弟を育て、彼女自身は結婚する事がなかった。 若い頃、本当に結婚したい人が居たらしいがその彼は別の人を選んで幸せになった。本当に、どこにでもよくある話だ。 私たちを育て終えた後、彼女をガンが襲った。 命は取り留めたものの、その後も再発と長年戦い続けていた。しばらくして姉を同じ病で亡くした後、唯一の肉親となった母親も病に倒れ、誰も助けてくれる人もないまま還暦を迎え、老後の備えもなく、ついには発狂した。 家族

    • 祇園囃子の消えた夏

      「ねえ次の夏まで私に飽きていなかったら、祇園祭の後祭に行かない?」 「きっと私、嬉しくて久々に浴衣をおろしてしまうわ」 きっとその頃には忘れてしまうだろう、そんな約束だった。 私はもうすっかり掠れた声の大人になってしまったから、きっと果たされない事くらいは初めから分かっていた。 けれど、それでも未来の話が出来ることが細やかな幸せだった。 その後は思っていた通り。でもそれはそれとして、きっと良かった。 かたがたの親の親どち祝ふめり子の子のちよを思ひこそやれ 藤原保昌 「そ

      • 部屋と冷蔵庫と私の男

        初孫が生まれ幸せでむせかえるような実家から、逃げるようにこの部屋に越して来た時、私が買った冷蔵庫は中古品だった。モノも味方もお金すら、本当に何ひとつ持たずにたった一人で飛び出してきた。必要最小限で良い。とりあえず今さえ何とかなれば、それでよかった。 「まあ一人暮らし用の冷蔵庫なんてあと数年持てば良いんだから、中古なら安いし手放す時に惜しくないし丁度いいわ」 数年後、数年前の私が想定していたように、それは壊れた。 私は一人で、そして一気に老いていた。 本当は分かっていた。

        • 赤い靴

          今朝もいつものように。 出納した本を抱えながら書庫の階段を駆け昇っていたら、靴先が滑って、履いていたハイヒールの片方が脱げて転がり落ちていった。 無論、拾ってくれる王子様など現れない。 シンデレラはどうぞセルフで。 「…そもそも私は王子様など、あてにするような女では無かったか」 散らばる本の真ん中で、ひとり赤い靴を拾う。 シンデレラ。 あんなあざとくて、嫌味な女は今も昔も大嫌いだ。 ガラスの靴を落としたのは明らかにワザとだし、手にしたものは何一つ自分の力で為し得たもの

        • 固定された記事

        メンヘラ図書館員が婚活マッチングアプリを始めて考えたこと

        マガジン

        • 惜しからざりし命さへ
          10本

        記事

          腫れた乳房

          左の乳房にしこりができた。元々皮膚腫瘍ができやすい体だったので、いつものことだとあまり気にしていなかった。 そのまま数ヶ月経ったある日、痛み始めた。 腫れた乳房が胸を圧迫し始め、仕方なく婦人科に行った。 一通りの触診を終えた先生は訝しげに「…ちょっと分からないけれど」と言って、とりあえず抗生物質を出されてその日はそれで終わった。 待合室で順番を待つ、若い夫婦を横目に見ながら会計を済ませ、いつまで経っても春が来ない夜を一人で歩きながら。 出産経験がない女性は、出産経験のある

          腫れた乳房

          その後・メンヘラ図書館員が婚活マッチングアプリを始めて考えたこと

          前日譚→ https://note.com/yae_y/n/n97fbadf15dbb 「結婚は考えられないから付き合えない、お互いに時間の無駄になるし、ってのも普通に考えたらあまりに即物的すぎるよな」と、久々に会った遼は言った。 『まあ特に女は出産の点から時間制限がある分、渦中の人間は最大効率を追求するのは分かる』 「そもそもマッチングアプリの仕組み自体がなんか底が抜けてて、身も蓋もないよね」 『とりあえず条件でしか相手を見ないのが前提だし』 「私は婚活って言葉で

          その後・メンヘラ図書館員が婚活マッチングアプリを始めて考えたこと

          Hello, Beautiful World.

          私は自分をさして美人だとも思っていないし、それほど醜いとも「今は」思っていない。基本的には「そんなことはどうでもいい」「どんなに美人でも惚れた男がこっちを向いてくれないなら何の意味もない」と思っていて、さほど興味もない。 だから新鮮だった。 何もかも手に入れたはずの姉が 「可哀想な子」であったはずの妹に こんなに激しい嫉妬をみせたのが。 私は一番はじめの子でもなければ、待望の男の子でもなかった。 姉のように開学以来の秀才でもなければ、弟のようにインターハイ選手でもなかっ

          Hello, Beautiful World.

          少女と人骨

          ついこの間まで同じクラスにいた同級生が突然亡くなった。 彼女が死んだ夜、母は私を呼び寄せ正座をさせ、その事実を告げた。 古くなって擦り切れた畳の上で、「人間は死んだら灰になる」と、私は教わった。 当時はまだ死というものがまだ上手く理解できなかったけれど、少なくとも生きている私の世界と対極の世界にあるもので関係がない、と思っていた。 数日後、彼女の葬儀に参列した。 薄暗い葬儀場の粛々とした空気の冷たさと菊の花の白さ、そして脇に飾られていた持ち主を失った制服を「なにかの抜け殻の

          少女と人骨

          砂の女

          子供の頃、「将来何になりたい?」という質問が嫌いだった。 将来必ず「何か」にはならなくてはいけないと言われているような気がして、いつも複雑な気持ちになった。 私はいつも私だけでありたかったし、私以外の「何か」などにはなりたくなかった。そんな「何か」などというあやふやなものに対して今から責任を持つことなどできやしないと思っていた。 「何か」になることを要求しておきながら、その「何か」とはなにか。 その疑問に答えをくれる人は誰もいなかった。 小学校の卒業式の時。 一人一人卒

          砂の女

          富美屋なべと、君。

          いつかその日は来るのだと、思っていた。 「現代は品がなくて嫌。」と、世界を大してよく知りもしないくせにやけに大人びていた君の、愛読書は嶽本野ばらの「それいぬ」だった。 その中に「女学生なら京都で食せよ富美屋なべ」という短いエッセイがあって、その一節を君は理想とする女学生の姿と崇めていた。 太いみつあみを結わえ、チェックのマフラーをだんご結びで首にして、 制服の上から学校指定の野暮なコートを着たまま額に汗なんぞをして、 「猫舌なのよ」と言い訳しつつそれでも色気構わず豪気にズ

          富美屋なべと、君。