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薮中塾11月勉強会報告

皆さんこんにちは!薮中塾11月勉強会担当です!

今回は11月21日(土)に実施しました11月勉強会の様子を、ダイジェスト版でお届けします!

●テーマ選定の背景

今回のテーマは「領土問題」です。

グローバリゼーションにより、「国家とは何か」が問われてきています。そのような中で日本は、生活が物理的に成り立つために必要不可欠である「土地」「地域」「場」が脅かされている状況にあります。

日本は、中国・韓国・ロシアとの間に、それぞれ尖閣諸島、竹島、北方領土の帰属についての問題を抱えており、日本の政治経済や安全保障に関しても重要な問題となってきています。
※正確には日本は尖閣諸島については領土問題と認識していません

例えば、2020年、ロシアは北方領土を割譲することを憲法で禁止しました。また、尖閣諸島船籍の日本の領海に中国船舶が長時間侵入する事件がありました。

皆さんは、これらの問題に対して自分の意見をSpeak out with logic できるでしょうか?

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国家として主権(他国に支配、干渉されない権利)を行使することができる「領土」を侵害されているという状況に、当事者として危機感を持つ必要があるのではないでしょうか。

以上の問題意識から、日本の領土問題を考えていく意義があると考え、3つの目標を設定しました。

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●勉強会のコンテンツ

今回取り扱う、「尖閣諸島」「北方領土」「竹島」の3つの領土問題は、それぞれ性質や有効なアプローチが異なります。

それぞれに最適な形式で、3つのパートに分けて勉強会を構成しました。

第1部:尖閣諸島

論題:近年の尖閣諸島や東シナ海における諸問題を考慮した上で、東シナ海における今後の日本の外交方針について具体的に述べよ。

第1部は、上の論題に対してグループに分かれてディスカッション→全体討論(薮中先生も)という流れです。

この部でのねらいは以下の4点。

①議論の時間を多く取るためレクチャーの時間を設けず、事前課題に回す。

②グループ分けにより、塾生各々のspeak outする機会を増やす。

③全体でspeak outすることで、他の意見を聞き、思考を広げ考えを深める機会を作る。

④薮中先生にも議論に参加して頂くことで、知識のインプットの質を上げ、speak outのタイミングや手法などのHow toの面でも学びを得る

このような形で、尖閣諸島を中心に、東シナ海での日本の外交方針を考えていきます。


第2部:北方領土

論題:返還交渉は、今後も継続すべきか否か?継続するならば、日本は2島返還を目指すべきか、それとも4島返還を目指すべきか?

こちらも同じく、グループに分かれてディスカッション→全体討論(薮中先生も)という構成です。

この構成にしたねらいは大きく3つ。

①「2島返還か4島返還か」というディベートも考えられたが、そもそも「北方領土は返還交渉を続ける価値があるのか」という意見も尊重し、自由討論を選択。

②グループ討論では、グループ内に返還交渉に反対、2島返還、4島返還の立場を散らばらせ、多様な意見が行き交うように。

③日本人が曖昧にしてきた「主権」という言葉の重要性を問い直すよう準備。また北方領土に対して、日露だけでなく米中などの国を含め大局的に考えられるように準備。

こちらはも全体討論の時間を多く取り、塾生それぞれの意見がぶつかり合うことを期待しています。

第3部:竹島

論題:竹島問題について我が国の主張を正確にまとめ、韓国側の主張の不適切な部分を正すこと。現状打破のための施策を1つ以上立案すること。

第3部はこれまでと打って変わって、プレゼンコンテストを実施。

竹島は韓国の実効支配を受けていますが、この状況に対し日本政府はこれまでアクションを起こせていません。仮に国際司法裁判所への付託が実現しても、実効支配の期間という要素は相手側に有利に働く可能性があります。このような状況下でどのようなアクションを起こせるのか、実効性を追求しつつ感がていきたいと思い、このような形式を採りました。

そして、以下のシチューエーションをもとに外交官になりきってもらいました。

<シチュエーション>
あなたは外務省の外交官で、竹島問題の解決にあたるチームに所属している。先日、このチームに新たな上司が就任。上司はこれまで竹島問題に関わってきたことはない。そこで、上司から上記の課題が与えられた。あなたのチームの提案は、のちに政府及び関係府省との調整等を経て、最終的な実行が予定されている。(上司=薮中先生やOB・OG)

模擬交渉という形式により、歴史認識や国際法などの理論の面から何を主張すべきなのか考え、さらには実際の交渉の場でどのように主張すべきなのかを理解してもらうようにしました。

「日韓が分かり合うことが必要」という半端な解決策に逃げるのではなく、いつ、どのステークホルダーに、どのような施策を打っていくのか、具体策を示すように求めました。

まだ細部にもこだわりが。
プレゼン枚数を最大3枚とし、1枚のスライドに内容を詰め込むことを意識。霞が関文学とも言われるいわゆる「ポンチ絵」です。


●当日の内容

第1部:尖閣諸島

事前課題で構築した塾生個人の考えを、当日はまず4〜5人のグループ討論でぶつけました。

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(事前課題の例)

そしてグループ討論の後は、塾生全員と薮中先生が混じっての全体討論です!
長くなりますが、一部抜粋し当日の議論の流れを再現します!

共同開発と同じように議論されるが、それと尖閣は別々に捉えうまく組み合わせていくべき。尖閣については中国国内で経済にも波及し日中関係の悪化を招く。この良好化を図るために共同開発というカードを使うべき。

中国と関係悪化している諸国(ASEANなど)と連携を深めてアプローチすべき。アメリカは頼れないし、ICJへの提訴は強制力ないから。

中国が動き始めた理由はズバリ「資源」。シーレーンを占領される危機があり、日本にとって大きな不利益。このとき不利益を共有する国と連携すべき(自由で開かれたインド太平洋戦略)&日本では抱えきれない問題。

そもそも領土問題などない。尖閣諸島は明確に日本の領土で、ICJに提訴する必要はない。つまり、防衛力を向上してけん制するしかなく、中国が動いてから自衛隊を動かすのではダメ。

自衛隊や米軍を送り込むと、中国が人民解放軍を送ってくる口実になるため、自衛隊を送るのは難しいのでは。

尖閣諸島がどちらの領土かはなかなか決着つかない。時間の無駄だから、それはいったん棚に上げ、双方メリットのある日中合意(=東シナ海油田の共同開発)を進めていくべき。

できるだけ司法力、警察力を向上するアプローチを取るべき。ただこの時グレーゾーン地帯(警察では足りないが軍事ではグレーな部分)をどうするか。中国側が実効支配を既成事実化しようとしているのが問題。

単独開発をやめさせるという意味での共同開発を進めていくべき。そしてICJは反対(中国の紙屑宣言、100%勝てる確証ない)。

この問題はこのままでは二国間では解決しない。ICJへ提訴すべき。竹島ではICJへの提訴に進んでいるのに尖閣で提訴しないとなるとそれはダブルスタンダードになる。領土問題の存在を認めることのデメリットは明確にどこにあるのか?

ここで時間が来てしまい、全体議論終了!
この後、実際に当事者として交渉にも当たっていた薮中塾長から貴重なお話をいただきました!

もちろんここで結論などは出ませんが、領土問題の認識、ICJへの提訴の意義、日中共同開発の位置づけ、対中の立場を同じくする他国と連携、など東シナ海における日本の外交方針について様々な方面から議論が行われました。


第2部:北方領土

こちらは、事前課題の段階からグループで意見をまとめてもらいました。そして当日は、別々のグループのメンバー4〜5人のグループ討論を行いました。

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(事前課題の例)

そのあとは1部同様、全体で討論。
こちらも長いですが、当日の議論の流れです。

日ソ共同宣言の「引き渡す」の意味を「主権も引き渡す」と明確化すべき。理想は4島返還だろうが、現実は4島とも返還してくれないのでは(ロシアのナショナリズム高揚)。交渉カードとして、海洋資源よりも極東地域の経済開発に焦点を当てるべき。クリミア併合後、ロシアは欧米諸国と関係悪化しているため日本は大切で、日本にとってもロシアは魅力的(エネルギー分野で)。まずは現実的に2島返還後、友好関係を結び交渉を続けるべき。

4島返還をこれまで通り一貫して求めるべき。2島返還はそこで交渉が終わってしまう可能性が高い。2島であればロシアは応じてくれるだろうという甘い考えがあるが、プーチンは「領土問題は存在しない」としている。可能性が低くても4島で強い姿勢を見せるべき。

米露関係悪化の中で4島は現実的ではない。ロシアにとっての経済大国は中国(=脅威にもなりえる)で、ロシアと日本の平和条約締結を急ぐ必要を感じているだろう。まず2島返還を行いながら、ロシアとの協力をはかるのが現実的。

ロシアが一番懸念しているのは、返還した場合に米軍が設置されること。もし返還された時に米軍が設置されないとは言い切れないのであれば、無理して急いで2島返還を目指すべきではない。条件が整ってから4島返還に動き出すべき。

この問題では両国に実害が少ないように感じる。また、北方領土の背景にはヤルタ会談の時からアメリカが深く絡んでいる。つまり日本もロシアも北方領土をひとつの外交カードとしている(せざるを得ない)だけなのでは?であれば、これまでと同じ姿勢を崩さず、米露関係など大きな変化が起こる頃合いをみて、他の外交カードと交えて4島返還に向けて交渉していくのが現実的。

と、ここで時間切れ。その後、薮中先生には、それまでの議論で足りなかったアメリカとの関係も含めたお話をして頂きました。

実現性、他の外交カードとの兼ね合い、背後にあるアメリカとの関係

第3部:竹島

こちらは前の2部と違い、いきなりコンテストがスタート。

全3チームが、薮中先生とOBOGを外務省の上司とみなして、竹島問題における「日本の主張」「韓国の主張に対する反論」「現状打破の施策」をプレゼンしました。

こちらは優勝したチームのプレゼンです!

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他の2チームはリサーチ不足やプレゼンがわかりにくいなどの指摘を受けていましたが、こちらのチームはかなりの高評価。

審査員からのコメントは上々でした。

・資料の質が高く、入念な準備をしてきたことが伝わりました。
・全体的なバランスが良かったと感じた。他方、1.5セクターについては学術レベルでの交流はわりとある。しかし、それでも政治的偏りは生じるのでそれのバランスをどう取るかを考える必要がある。竹島だけでなくその他の問題にも触れられていたので良かった。

また、勉強会後にも参加して頂いたOBの方からこのような暖かいご指導を頂くことができました!!

全体へのコメント
世界各地で領土問題があると思うが、どのような分類ができ、竹島問題はどのタイプに位置付けられるのか?領土問題の大きな構造を最初に示してほしい。
→ ① 一方が占領する(e.g. 北方領土)
  ② 一方への帰属を認める(e.g. サンアンドレアス島・プロビデンシア島)
  ③ 島を「岩」と見做して領有を放棄する(ロッコール島)
  ④ ICJへ提訴し、帰属を決定する(e.g. マンキエ・エクレオ諸島)
3つの時代別論点があったように思う。①江戸時代、②WW2以前、③WW2以降。これから交渉に当たって、日本側が一番詰められていない論点はどれなのか?

グループC
【質問】
 研究機関について、総合研究機関としてJIIAも研究をしているし、専門機関が既にあるなら新設する意義がないのでは?(c.f. slide 3)
 ICJへの提案を、韓国はどのような理由で拒否しているの?(c.f. slide 1)
スライド2で、韓国の主張については分かるけど、そのロジックは書いていない。韓国は主張を裏付ける根拠として何を参照しているの?
交渉に当たり、韓国が日本に対して欲しているものは何ですか?
【その他】
上司への報告に耐え得る質の高い資料だと思います。一方で、5分の報告時間なので、要点を話す力を身に付けましょう。(資料はこのままで良いです、上司が時間あるときに見れるので)

このような形で、各方面でご活躍されているOBOGの方からもフィードバックを頂きながら成長していけるのは、薮中塾の強みですね!!!!


5. 勉強会を通じて

参加後のアンケートでは、以下のような塾生の声が上がりました!

事前にスピークアウトしようとしていた内容をほとんど話すことができ、一定のフィードバックももらうことができた。ただ、もっと相手の主張に対してロジックのある反論や、積極的な反論をするべきだった。
なぜ小さな島に拘って何年も議論してるんだろう、渡せばいいのにと思っていたが、排他的経済水域による経済への影響が大きいことや、その島を引き金とした侵略などの不安要素も多く、領土や主権は大切だと感じた。
自分自身、北海道で育つ中で「領土の危機」の認識と共存してきた。一方、これまで正確な現状認識のための勉強をしてこなかったが、今回の勉強会を通して勉強しなおし、正確な危機意識を持つことができた。
日本人の大学生や学生全般、領土問題に対して意識が低い(竹島問題などに関して、そんなことで争ってないで、早く韓国に渡して日韓関係良好になってほしい!という人も少なくない)。その中で、私はきちんと自分の意見を持って、周りの友達にも発信していきたい。

耳にはするけれど、これまで案外真剣に知識を集め自らの考えを構築することのなかった領土問題について考えが深まり、今後の塾生の活動に活かすことができるまでに至った、というような姿が幾つかみられました。

●勉強会担当の声

1部担当者の感想
 みんなが積極的に発表してくれたのはよかった。ただし誰かの発言に対する反論などはあまりなく、もう少し「殴り合って」ほしかった。概ね満足はしているものの、全体的にもっと深い議論がしたかったようだ。次のステップとしてバチバチに殴り合って欲しいです!
2部担当者の感想
 短時間ながら熱い議論が実現した一方、論点が「2島か4島か」に留まり、日ロ関係と日米同盟の相克に触れられなかったのは残念だった。塾生の満足度が高くて嬉しいし、今回を契機に風化が進む北方領土問題への意識を少しでも高めてくれれば。ただ、いい主張を持っているが発言されていない方もいて、どうしたら発言を促す事ができるのかが今後の課題であると考えています!
3部担当者の感想
 グローバル化はボーダーレスを促すが、国境が曖昧になってしまうと、自国の領土まで曖昧になってしまう。竹島は所詮「岩」であり、水産資源や地下資源などに恵まれているわけではない。しかし竹島は日本国の領土であり、他国に支配されている。「日韓がよく話し合うことが重要」などという曖昧な言葉で片付けたくないという私達の問題提起と参加者との意思疎通が実現していた。他の塾生やOBOGさんから、勉強会後の次の行動につながるような影響を受けた塾生がいたことが嬉しかった。

このように、勉強会担当としても意味をしっかりと感じ取ることのできた勉強会でした!

嬉しかったのは、アンケートで「11月勉強会が今までで一番充実感のあった勉強会だった」との声がいくつかみられたことです!

なかなか難しいテーマだったので、勉強会担当者としては本当に安心しました!

●今後の抱負

そして事後アンケートでは、塾生から今後の活動について、このような抱負をもらいました!

今までの集大成として知識や思考をブラッシュアップするとともに、個人的にディベートの考え方を身につけたい。
これまで以上に事前準備を行ってスピークアウトし、主張と反論をより積極的に行えるようになる!あと、スピークアウトした主張に対して多くの反論が来て、俺も反論してブラッシュアップするみたいな機会にできたらいいなと思います!
Speak outできる環境を作りたい。前期の勉強会は色々工夫してやったが、後期はバチバチ議論していろんな意見を聞きたいし生み出したい。

やはり、薮中塾生はもっともっとバチバチSpeak outしていくべきだと再認識しました。

残りわずかの勉強会、そして2月に迫る公開イベントの中で、僕たちが入塾した時に描いていた青写真をはるかに超える成長をしていきたいです!


以上、11月勉強会報告でした!

拙文ながら皆様のお役に立てましたら幸いです。この記事のリリース前日に開催された12月勉強会は関連性のある難民問題について取り上げたようです!

また次も、報告記事をご覧頂けますと嬉しい限りです!

文責:石川


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