週間手帖 六頁目
2021.11.13
ゆらゆらと赤い季節が蘇る。スーパーカーに乗って一年前の八月に帰り、桃色の駆け引きも知らないあの夏に溶けよう。透明な心を涙に変えて、夢の先で会おうねラッキーガール。
2021.11.14
電子的海に漂流する数多の不安と不幸とくだらない承認欲求。プラスチックのように消化されることなく蓄積され続けるそれは、黒い渦を伝染させてゆく。正体が見えなければノーリスク。それこそがハイリスク。すべての申し出は、ここへ来て、目を見てどうぞ。安直な泥濘に足を取られているようでは話にならないのだから。
2021.11.15
一息懐かしむ余裕さえ与えられず、手遅れだと突きつけられた。重力に引き寄せられるように目に入った薬指の鉛に、喉の奥がひゅうっと鳴った。愛にも恋にも落ち着かないどろりとした感情をコーヒーに混ぜて、一気に流し込んだ。砂糖が足りないな、と零すと「いつだって苦いくらいがちょうど良いんでしょう?」と首を傾げる君。その悪気のなさは、もはや罪に等しい。揺らめく水面は段々とぼやけてき、微かに捉えることができた自分の顔は、思わず笑ってしまいそうなくらい不甲斐ない顔をしていた。残念ながら砂糖はすべて溶けてしまったようだ。
2021.11.16
重い想いに飽き飽きしながら、くたびれた青春を彷徨う。交わらない視線ばかりが交差する生産性のないコミュニティの中で、言葉にすることが苦手なぼくらは、そっとスターチスの花束を押し付け合っては、誰も永遠の呪縛から逃れらずにいる。一抜けたの合図ですべてが崩れるなら、それがいい。ぼくを含め、誰もそんな勇気は持ち合わせていないのだけれど。
2021.11.17
華奢な背中はいつしか一回りも二回りも大きくなった。愛も夢も希望も、妬みも恨みまで余すことなく背負ったまま、今日まで走り抜けてきた。君の持ちうるものすべてをかけた日々が過ぎ、本日を以て第一幕を終焉する。カルミアの花が朽ちるその美しさに視界が揺らいだ。君の夢がまたひとつ大海を舞い、天に弾けた。鳴りやまない拍手と愛のかたまり。君の頭上に、ポインセチアの花々が降り注ぐ。
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