見出し画像

衛星開発のプロジェクト・エンジニアの仕事とは? (インタビューシリーズ第2回 後編)

XRISMプロジェクトで、プロジェクト・エンジニアを担当している戸田謙一さんへのインタビュー、後編をお届けします。前編はこちらです。

“文化”の違いを楽しみ、強みにする(衛星開発、プロジェクト・エンジニアの仕事)

—— XRISM のプロジェクト・エンジニアとしての業務はどんなものでしょうか。

例えば何か物を作ることを想像してみてください。システムズエンジニアリングでは、次のような考え方をします。

1. 作る物の目的は何かを明確にする。
2. ミッションの目標・要求を作る。
3. それを実現するシステムはどういう機能・性能を持つべきかを定義する。
4. 上記の定義に基づいて物を作り、
5. 最終的に要求通りに物ができたかどうかを検証・評価する。


プロジェクト・エンジニアは、このシステムズエンジニアリングの考え方で確実に開発するという観点でXRISMプロジェクト全体を見ていく役割ですね。

衛星を開発していく上では当然、いろんな課題が発生したり悩んだりします。そういうときに、例えばPrinciple Investigator(PI:研究主催者)の田代信先生は「このミッションの達成点をより良いものにする」という観点で課題解決をする立場です。

でも、その観点だけを突き詰めるとスケジュールが長期化したりコストが増加したりします。

プロジェクト・エンジニアは、PIとは別の観点から見て、「もともとの要求ではそこまでやる必要は無い」「逆にここはもっとしっかりやるべきである」というように、システムズエンジニアリングという手法を用いながら一緒に課題解決をするという役割かなと思います。

—— プロジェクトは現在どういう段階でしょうか。

各観測機器、バス機器の開発が佳境に入り、これから結合していくところです。観測機器で難航している課題もありましたが、もうすぐそれが解決して、来年初めには全ての機器が結合され、いよいよXRISM衛星としての総合試験が開始されます。

Xtend冷却試験

—— 苦労したことがあれば教えてください。

XRISMの目標・性能要求を明確に定義して、文書にまとめるのに苦労しました。XRISMはASTRO-Hの代替機ですが、プロジェクトのコアとなる科学目標やそのために必要な機能・性能をあらためて定義し直しました。そのために、メンバーでの意識合わせもしっかり行いました。

—— 国際ミッションですので、NASA等海外機関の方とも仕事をされるかと思いますが、マネジメントの仕方の違いや独自のルールなどはありましたか。

はい、その点も苦労したことの一つです。同時に、自分もNASAから学び、成長できたかなと思える点でもあります。ASTRO-Hのときには、NASAは観測機器の一部を提供するという機器レベルでの協力でしたが、XRISMに関しては、単に観測機器の提供だけでなく、プロジェクト全体に関わる立場でNASAは参加しています。

これまで私が話してきたシステムズエンジニアリングの考え方に基づいて、衛星開発をするのは、NASAの方がかなり先輩で、知見・経験とも豊富です。システムズエンジニアリングの観点で、「こうすべきではないか」「ここはどうなっているのか」など、NASAからいろいろな疑問や提言がありました。NASAとJAXAの間での調整は苦労もしたのですが、有益でした。おかげで、信頼性が高い衛星に仕上がりつつあると思っています。

— プロジェクト・エンジニアとしての面白さはどんなところですか。

プロジェクト・エンジニアはある意味、何にでも首を突っ込んでいい立場です。機器の担当であればもっぱらその機器について責任を持つ仕事ですが、私のポジションだと、いろんなところに目を配らなければならないとも言えます。

逆に言えばどこに口出しをしてもいいし、どういう話題にでも携われるというところが楽しいですね。

note記事インタビュー02-03

—— XRISMプロジェクトのどんなところに期待していますか。

自ら加わったと言うよりは呼ばれて参加したプロジェクトではありますが、やってみると愛着もわき、サイエンスの皆さんから期待されている成果をしっかりと出せるように、少しでも自分の力で貢献しミッションを成功できればいいなと思います。この観測でものすごい発見がされたときに、自分も少しは役に立ったと思えるようにしたいと思っています。


—— XRISMに期待されている方々に何か一言お願いします。

衛星を確実に開発してお届けします。良い成果が出せるように、微力ですが自分の力をそこに発揮していきたいと思いますので、待っていてください。

インタビューした日:2021年9月10日
インタビュアー:中野太郎
編集:堀内貴史・生田ちさと


この記事が参加している募集

仕事について話そう