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衛星開発のプロジェクト・エンジニアの仕事とは?(インタビューシリーズ第2回 前編)

XRISMインタビューシリーズ 第2回 前編

XRISMのプロジェクト・エンジニア 戸田謙一さんへのインタビューをお届けします。戸田さんは、XRISM計画を立ち上げた時に、筑波の衛星部門からXRISMに参画したスタッフです。

プロジェクト・エンジニアの仕事とは? 衛星開発にも使われているシステムズエンジニアリングの考え方とは? 

複雑かつ信頼度の高い衛星を開発する醍醐味などを語っていただきました。

良い点を融合させて成功を目指す

—— プロジェクト・エンジニアに就任された経緯をお教えください。

XRISMはASTRO-Hの代替機として立ち上がったミッションです。ASTRO-Hの教訓を活かし、かつ、同じ失敗を起こしてはいけないということで、プロジェクトの進め方をよりしっかりとしていこうということになりました。

具体的には、それまで宇宙科学研究所 (ISAS)で行われてきた衛星開発のやり方に加えて、筑波(旧宇宙開発事業団(NASDA))で実績のある衛星開発の手法(システムズエンジニアリングや信頼性、品質管理の考え方)をうまく組み合わせようという流れです。(※)

もともと私はNASDAで衛星開発に携わってきたので、その仕事のやり方や知見・経験をうまく相模原のやり方に融合させてくれないかということで参加することになりました。宇宙研所長の常田佐久理事(当時)と第一宇宙技術部門長の山本静夫理事(当時)から、「面白い仕事だと思うからぜひやってみないか」とお話をいただきました。

※編集注:JAXAはNASDA、航空宇宙技術研究所 (NAL)、ISASという、別々の3機関が統合して設立された組織。NASDAの拠点は筑波、NALの拠点は東京都の調布、ISASの拠点は神奈川県の相模原にあり、現在もそれぞれの部門の拠点である。

—— ASTRO-H事故の教訓として、プロジェクト運営の改革を行うという結論になったということでしょうか。

はい。ASTRO-Hの事故はいろいろな要因が重なったわけですが、システムズエンジニアリング(SE)の考え方を取り入れて、プロジェクトをより確実に推進することにしました。

XRISMは大部分がASTRO-Hの設計を踏襲して開発します。なので、新しいことにチャレンジするとか新しい課題を解決するというよりも、決められたものをしっかり作るというやり方が役に立つのではないかと。そこで、「システムズエンジニアリング (SE)」というやり方を取り入れることで、より成功に近づくのでは、という考え方です。

JAXAはNASDA、NAL、ISASの3機関が統合した組織です。元の組織が持っていた仕事の進め方に少しずつ違いがあったのですが、それぞれの良い点を一つにまとめて、オールJAXAとして、より良くしようという流れの第一号がXRISMです。これ以降のミッションも、基本的には同じ考え方で進んでいます。

—— 各組織の良い点を融合させることで、プロジェクトの確実性が向上するということですね?

はい。何か課題が生じたときというのは、どんなやり方が良いかというよりも、その課題に対してどれだけ知恵を出し合って解決できるかが重要です。そういう場面において、ISASの教授や准教授、助教の知見は大変深く、心強いです。一方で、多岐にわたる議論を最後にうまく仕上げていくときには、ある程度筋道立ったやり方にしないと、取りこぼしが生じたり、ある所にばかり集中しすぎて他がおろそかになったりすることがあります。

そういうときに、もう一度自分のポジションと、今やるべきことを考えて整理するやり方として、システムズエンジニアリングという考え方が大規模プロジェクトでの一つのスタンダードになっています。

実際のところ、物事のやり方にはいろいろあります。異なった知識や経験をもつメンバーが集まることで、お互いに知らなかったところに気づく時があって、「こういうやり方をすればうまくいくんだ」という点をうまく融合させられるということですね。

—— プロジェクト・エンジニアの立場で、開発チームのどのくらいの人数の方々とかかわっているのでしょうか。

JAXA所属のメンバーだけではなく、大学のメンバーや実際にものづくりをしている企業の皆さんなど、さまざまな方々と話をしています。半分はJAXAや大学関係者との仕事で、あとの半分は実際にものを開発している企業の皆さんとの仕事ですね。

複数の関係者をつなぐような立場なので、考え方や価値観、物事の進め方の違いに気づけて、なかなか面白いです。

—— それを楽しめるというのも素晴らしいですね。

いや、楽しめないとやっていけないという、たぶんそういうところですね。(笑)

note記事インタビュー02-01

最終的に、XRISMという衛星を成功させて成果を出したいというのはみんな同じですが、そこに至る道の進み方が、しっかり進んでいく人、急に飛び越えちゃう人、裏道から回る人など、いろんなやり方があって、真面目に考えるとドツボにはまってしまいそうなときでも、「あ、そっちの進み方があるんだ」という発見があったりするので、それはそれでとても面白いです。


—— 戸田さんはNASDAで地球観測衛星「だいち」(ALOS)に携わっていらしたそうですが、その経験をXRISMで活かせる部分はありますか。

地球観測衛星と天文衛星は、観測対象は全然違います。でも、見る方向が地球を向いているか反対側(宇宙)を向いているかが違うだけで、宇宙空間にいて遠くのものを観測するという意味では本質的には同じだと思っています。

XRISMに搭載されている観測装置は、地球観測衛星とは当然違いますが、それを支える「衛星バス(※)」は、実は地球観測衛星と9割がた一緒です。そういう意味では非常に似通っているので、これまでのいろんな知識と経験が同じように使えます。

その一方で、見る対象が違うので実際の衛星の動かし方や、どう使っていくかは違っていて、そこが面白いところです。

※編集注:衛星バスとは、姿勢制御や電源など、どの衛星にも共通する基本的な機能をもつ部分のこと。一方、観測装置は「ミッション部」。

——NASDAを就職先に選んだ経緯を教えて下さい。

正直、あまり深く考えていたわけではありませんが、学生のときは、自分は絶対に研究者タイプではないなと思っていました。物事を突き詰めて探究していくタイプではなく、もっと全体的に携わることができる方が好きだと思っていたので、そういうところで働きたいと思っていたときに、たまたま当時のNASDAを知りました。

ここはいわゆる研究者的な組織というよりは全体的に携わりながら物を作っていくことができるんじゃないか、と思って選んだという感じです。専門がこれだからというよりも、面白そうだからという理由でこの世界に入りました。


——普通は、最後に聞くような質問なのですが、これからJAXAに入りたいという方にメッセージをお願いします。

note記事インタビュー02-02

JAXAを志望する方は、皆さん非常に専門的な知識を持っていらっしゃると思うので、それだけでは他の人との違いは出せないのかなと思います。とにかく、その先に自分がどんなことをしたいか、それを楽しくやっていきたいという気持ちを持っていただくのがいいのかなと思います。言われたことを淡々とやるよりも、時には暴れてもいいと思うので、そんな形で仕事を進める気持ちを持っていただくといいかなと思います。

後編へつづく

インタビューした日:2021年9月10日
インタビュアー:中野太郎
編集:堀内貴史・生田ちさと


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