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わたしたちの知らない上流階級のお話。『華族たちの近代』浅見雅男


『華族誕生』につづく、浅見先生の本。こちらは一般読者にわかりやすいよう配慮し、1章ごとに華族の基礎知識、華族になれなかった人々、華族の条件、結婚、華族と軍隊、華族とスキャンダル・・・等々特徴をまとめています。

そもそも、華族って外国にある貴族みたいなもの?皇族とどう違うの?とわからないことだらけですが、江戸時代までのお公家さん(朝廷に使えた貴族や上級官僚)や大名のほか、明治維新以降国家に貢献して華族になった人とか、皇族から臣下に降下した華族などいろいろ種類があったそうです。

なので、浅見先生の前著『華族誕生』と合わせて読むと、よりリアルに華族の姿、特権階級の存在した戦前の日本社会の様子がわかってきます。江戸時代の古い制度が明治時代や大正時代どころか、実は昭和の敗戦まで綿々と残っていた様子も伝わってきますし、驚きます。

漠然としたイメージが先行しがちな華族について、浅見先生はしっかり事例をあげて教えてくれます。例えば、日本の軍隊の中では華族が特別待遇されて、安全なところに配置されなかったとか、愛新覚羅浩(ラストエンペラーの弟溥傑に嫁いた日本の皇族の女性嵯峨浩)の自伝には当時の社会状況や日中文化の相違について間違いが多くて、それは全部まとめて「陸軍の謀略」にされている(自分のせいではなく陸軍が悪かった)と書かれている部分が少なくないとか。

この嵯峨浩の自伝の中の陸軍への責任転嫁(自分は犠牲者)については、入江さんの本がいくつか出ていて、かなり詳しかったはず。

もとい。浅見先生の本の中で一番驚いたのは皇族華族の増え方(増やし方)とその財産のすごさ。明治以降の天皇制確立のためとはいえ、ものすごい財産が天皇に集中していて驚きました。下々の人たちは、開国と近代化のために税金が厳しかった時代ですから、不公平感がありますよね。もちろん、政治だから仕方ない部分があるとはいえ。

そして、最終章の原敬に関する記述は、浅見先生の華族に対するスタンスがすごくよくわかって好感がもてる読後でした。文庫にもなっているので、入手しやすいし、ハードカバーだった前著よりも、読みやすくなっていてうれしいです。


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