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歌人に学ぶ「まろび」の美学。『ぼく、牧水!』伊藤一彦・堺雅人


あるお坊さんを調べていたら、若山牧水に師事していたらしいので、読んでみた本です。宮崎出身の堺雅人さんと、堺さんの高校の先生だった伊藤一彦(現在は、若山牧水記念文学館館長)さんの対談形式なので読みやすく、宮崎出身の牧水の入門編としても、なかなかおもしろかったです。

印刷文化が発展した明治20年から30年代は、西暦でいうと1890年代あたりで、19世紀の終わり頃。そのころには、10代の若者が熱心に歌を詠んだので、投稿雑誌も盛んだったそうです。

伊藤先生曰く、当時の旧制中学生(今の高校生)にとっても、基礎になる教養がなければ、与謝野晶子や鉄幹なんかの歌はすぐには親しめなかったはず。でも、和歌の歴史を知らない中学生でも牧水の歌は理解でき、しかも魅力を感じる歌だったとか。たしかに、ちょっとJ-POPっぽい感じ。

白鳥はかなしからずや 空の青海のあをにも 染まずただよふ (牧水)

そして、牧水が昔の歌人で一番好きなのは西行。私は、西行法師といえば、百人一首にも歌がありますが、一番有名なのはこの歌でしょうか。

願わくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ (西行)

若山牧水はお酒が好きで、旅が大好きで、汚い格好であちこち旅をして、弟子の面倒見がよくて、会いたいと言われれば山奥まで会いにいったそうです。確かに、私が調べているあのお坊さんも心酔しそうな歌人です。

そして、山国育ちで、生涯、海に憧れたという牧水。信州の山奥出身の私も親近感がわきます。なにより、あの有名な歌は、私も大好き。

 幾山河 越えさり行かば 寂しさのはてなむ国ぞ 今日も旅ゆく(牧水)

これは、ドイツの詩人カール・ブッセの詩をベースにしている歌だとか。上田敏さんの名訳も有名です。

山のあなたの空遠く 幸い住むと人のいう ああ、われ人と尋めゆきて 涙さしぐみかえり来ぬ 山のあなたになお遠く 幸い住むと人のいう


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