記憶をつないでいく不思議な物語。『おもいでエマノン』梶尾真治
表紙をみただけで、なんとなく気に入りそうだってわかる本がときどきありますが、この本もそんな感じ。表紙買い、ジャケ買いとはまたちょっと違った感じに、ピピピとアンテナにひっかかるというか。だいたい、そういう本は読んでいても心地いいんです。
大学生のぼくは、失恋の痛手を癒す感傷旅行の帰り、フェリーでひとりの少女に出会った。ナップザックを持ち、ジーンズに粗編みのセーターを着て、少しそばかすがあるが、瞳の大きな彫りの深い異国的な顔立ちの美少女。彼女はエマノンと名乗り、SF好きなぼくに「私は地球に生命が発生してから現在までのことを総て記憶しているのよ」と、驚くべき話を始めた……。
SFはあまり詳しくないので、内容はかなり新鮮でした。エマノンという主人公は、地球が生まれた頃からの記憶を持っていて、それをずっと絶やさずに娘に伝えていきます。男性たちは、彼女の不思議なたたずまいに恋をして、恋愛をして、分かれる。
だから、短編集のように何話かに分かれていて、そのお話毎に必ずエマノンは登場するんですが、お話の舞台と彼女を取り巻く人々が変わっていくという感じ。一話づつ、全く違う物語の趣がいいですね。
私が好きなエピソードは、「さかしまエングラム」や「とまどいマクトゥーザ」、「うらぎりガリオン」、「しおかぜエヴォルーション」かな?
運命の女性エマノンが受け身じゃない、独立した一個の女性として、イキイキしていたり、エピソードそのものがとても魅力的だったりする気がします。
そして、すべての物語が希望を持って終わるのもいいです。なんというか、命は限りがあって儚いものだけれど、それでも人生はすばらしいって応援してもらえるような、そんな物語に思える名作です。コミカライズもされているそうで、なるほど納得ですね。