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日本女性の百年をふりかえる。『モダンガール論』斎藤美奈子


斎藤美奈子さんは、女の子には出世の道が二つあるといいます。それは、立派な職業人になることと、立派な家庭人になること。職業的な達成は、労働市場で自分を高く売ることですし、家庭的な幸福を求めるのは、結婚市場で自分を高く売ること。女性の場合、どちらも「出世」。だから、女性たちは「二つの道」の間で揺れ動きながら、したたかに生きてきました。それが、近現代100年の日本の女性史。

20世紀に入って広まった、新しい思想の「望ましい女性の生き方」は、女学校→職業婦人→主婦というモデルコース。しかし「憧れ」を実現できたのはごく一部の恵まれた人たちだけで、多くの女性たちは貧しく生活するのがやっと。もちろん、選ばれた女性たちにも当然、苦労はありました。戦前の女性は、なんだかんだいって、男性に従属せずにはいきていけませんでした。

戦前に「憧れ」だった女性の「出世」は、戦後の高度経済成長によって日本女性の平均的なライフスタイルになりました。高校・短大→OL→専業主婦というふうに、かつての夢がようやく国民的規模で実現した途端、「こんなはずじゃなかった」現実が待ち受けていました。

女子学生亡国論」「腰かけOL排斥論」「主婦論争」など、戦前にもあった女性批判が繰り返されることになったのは、なぜでしょうか?

結局、戦前と戦後の違いは、一部の女性だけのものだったライフスタイルが日本人女性全体に広がっただけ。基本的に、男性に依存しなければ生きていけない女性という事実に変化はありませんでした。戦前、戦後を通じて「男は外/女は内」という社会制度が普遍性を持った日本。それが行き詰まりの原因だと、斎藤美奈子さんは結論します。

この本はとても読みやすいし、わかりやすくて、女性史の入門書としては最適だと思います。大学の先生が専門的に書くと、専門用語とかとっつきにくかったり、内容が詰め込まれすぎて、基礎知識がないとよくわからない本になります。

例えば、大越愛子『フェミニズム入門』(ちくま新書)とか、ちょっと敷居が高いです。多分、大学生に教科書代わりになるような本というコンセプトだったんだと思います。でも、斎藤さんの本は一般雑誌に連載されていた文章だから、普通の人に読みづらいということはありません。

女性史とかフェミニズムに興味があるけど、よく知らないという人には、ぜひ勧めたい一冊です。この本を読んで、大体のことがわかったら、巻末にある参考文献を読むとなおいいと思います。

ただ、女性史の専門書を結構読んでいる人にとっては、目新しい史料はありません。斎藤さんが専門的な先行研究をまとめて書いた部分と、斎藤さん自身のいつもの文章がチグハグで、その差が気になる人もいるかもしれません。これは、連載当時の文章に加筆修正していることが原因かな?どうでしょう?


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