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料理以外も楽しめる。『西太后のアンチエイジングレシピ』阪口珠未

「74歳まで、シミ、シワ、白髪、ボケなしで生き抜いた」
「門外不出の宮廷美容食を、いまあなたに」

帯のキャッチコピーがあまりにもアレで、ツッコミどころ満載で、写真もド迫力で、いったい何をどうしたいの!?と編集さんやら著者を問い詰めたくなりますが、何の事はない、薬膳料理のレシピです。

でも、帯以外の、目次の西太后ワードなんかもすごいです。

美肌・黒髪:70代でも少女のように色白の肌、長い黒髪には一本の白髪もなかった。
ファッションリーダー:真珠、宝石、絢爛たる刺繍。その優雅さに西洋女性もうっとり。
愛され体質:平凡な家柄に生まれながら、帝に選ばれ、次の皇帝の母となる。

えーっと、西太后といえば名前は有名ですが、詳しく知らない人も多いと思います。中国の清朝第9代咸豊帝の側妃で、皇后、東太后に次ぐナンバー・スリー。西太后は本名じゃなくて、住んでる場所+后としての位。平安時代の「桐壺の更衣」みたいな感じですね。

西太后は夫が亡くなり、幼い息子が第10代の同治帝になったので、後見として権力をふるえるようになります。そして、息子も若くして亡くなると、妹の子を次の皇帝に擁立します。この光緒帝が幼いときも後見役を努めますが、東太后がなくなると彼女の一人勝ちに。

ちなみに加藤徹先生の『西太后』によると、清朝は美女ばかりを妻にして滅んだ前の明王朝を反面教師にして、賢さを基準に皇帝の奥さんを選ぶシステムをとったとか。なので、当時の女性としては珍しく西太后は字が書けて、公文書も読めたようです。

とはいえ、甥っ子の光緒帝が大人になって独立心を見せると幽閉するとか、ヒ素毒殺の疑いがあるとか(発掘した光緒帝の遺体からヒ素が出た)、ラストエンペラーの溥儀を次の皇帝に指名した翌日亡くなるとか、いろいろ美容とはかけ離れた話しか知らない私なので、逆にこの本のキャッチコピーは、ツッコミどころ満載でおもしろかったです。

まあ、辛亥革命の後、中華民国になって中国統一戦争の過程で西太后の墓が暴かれたとき、「まるで生きているようだった」とかいう俗説がたくさんあるし、第一、皇帝の奥様なんですから、美容も化粧も美食も、きっとすごかったんだろうことは間違いないでしょうけれど。

だから、その割に、薬膳料理レシピとしては普通の部類でがっかり。ただし、一応、主婦の友社という老舗出版社の良心か、レシピ集の中ほど6頁にわたって、専門家の加藤徹先生がやんわりとアレなキャッチコピーを修正&補足しているところには好感がもてました。


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