大好きな漫画家さんの作品が映画化。『金の国 水の国』2023年。
いやもう、公開すぐに家族で行ってしまいました。岩本ナオさんは、『町でうわさの天狗の子』から『雨無村役場産業課兼観光係』、そして初期の作品から今連載中の『マロニエ王国の七人の騎士』まで全部読んじゃうほど、家族でみんな大好きですから。
でも、今回の映画化では「最高純度のやさしさ」とか「号泣」みたいなキャッチコピーが踊っていて、「あれ?岩本さんの作品って独特な色があって、そういう万人受けの感じじゃないはずなのに?」とか思ってしまいました。
登場人物がみんなテンプレじゃなくて、ちょっとづつ長所短所があって、それが個性的で、みんないい方向にそれなりに落ち着きどころを得るけれど、単純なおとぎ話ハッピーエンドとは一線を画すというか。
『金の国水の国』は、ずっと戦争を続けていた2つの国が、やむを得ず一番賢い青年と、一番美しい女性を結婚させなければならなくなり、王様たちは約束をやぶって、犬と猫をお互いに送りつけたことから物語が始まります。原作はかなりナンセンスな感じで展開する冒頭ですが、映画もそれなりに理不尽な感じで悪くなかったです。
犬の婿を迎えた93番目のお姫様(ぽっちゃりかわいい)と、猫の嫁を迎えることになった貧乏で職なしの土木技師の青年が、偶然出会い、惹かれ合っていくのですが、その出会いからお互いを好きになる過程の小さな積み重ねのディテールが原作はしっかりしていて、でも、ひねりもかなりあったりして、独特な岩本ワールドを醸し出しています。
ただ、原作の繊細な絵だけどちゃんと漫画になっているアナログ感が、岩本さんの超絶個性だと思っているファンは、アニメだと「普通」になっちゃう部分をみると少し残念かも。まあ、仕方ないといえば仕方ないんですが。やっぱりアニメは、見る人みんなにわかりやすくしないといけないですし。
岩本さんのマンガはどれも個性的。日本の地方都市の高校生の青春と「天狗」のファンタジーを融合した『町でうわさの天狗の子』や、東京の大学を出て地元に戻った男の子の田舎ライフをうまく切り取った『雨無村役場産業課兼観光係』は、名作と秀作って感じでした。
そして、今、連載中の『マロニエ王国の七人の騎士』は、めちゃくちゃヨーロッパや東南アジア、南米テイスト。どの国の建物や服装も文化も、ものすごく岩本さん独特のタッチでデフォルメされて、伏線はりまくりの、ちら見せミスリードがばらまかれ放題で、本当に地球サイズの玉手箱みたいなお話が最高です。こちらは大作。
『金の国水の国』も悪くないですが、ちょうど、日本を舞台にした作品郡と、海外を舞台にした作品のちょうど真ん中にあって、舞台はトルコとかブータンっぽい世界だけど、登場人物に安藤忠雄似の登場人物や、AKB48みたいなギャグが入ったりで、過渡期の中くらいの作品というのが私のイメージ。
ともあれ、映画化にはかなりハラハラした原作ファンですが、原作愛にあふれた映画すばらしいアニメになっていたのは間違いありません。絵が可能な限りすばらしいし、声を担当した俳優さん、声優たちもぴったりすぎます。特に、主役の脇を固める役の人たち。原作以上にかっこいい王女(戸田恵子さん)と、その愛人サラディーン(神谷浩史さん)、暗殺部隊のライララ(沢城みゆきさん)は完璧以上。すごい……
岩本さんの作品を知らないでアニメを見て好きになってくれた人に、原作も読んでみようかなと思わせるはずな声優のみなさんの布陣。さすがでした。イメージとは若干違うけれど、これはこれでありかなあと思っています。マンガだと音楽がないですが、映画は音楽がつくのもいいですね。
ノベライズもされているとのことで、岩本ナオさんファンがたくさん、たくさん増えるといいな。増えて欲しい!
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