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よりよい未来を求める中国の女性たち。『現代中国女工哀史』レスリー・T・チャン

通勤電車で読みましたが、結構時間がかかりました。なんせ、400ページ以上というボリュームだし、いろんな話題をつめこんでいるので。

タイトルが『女工哀史』というのは、いつもの中国本にありがちなミスマッチ(というか、販売戦略上の都合?)原題は、『ファクトリー・ガールズ』。東莞市に出稼ぎに来た中国人のたくましく、したたかで、でもそれだがらこそ苦労を重ねる若い女性、中年男性たちの話。映画『女工哀歌』からわずか数年しかたっていないのに、中国の社会は大きく変化して、出稼ぎ労働者たちもかなり状況が違っています。

2008年に出たアレクサンドラ・ハーニーの翻訳本『中国貧困絶望工場』とも違った、摩訶不思議な中国の出稼ぎ労働者たちの生命力がすごいです。特に、やっぱり女性たちのたくましさがいいですね。

かつての出稼ぎ労働者たちは、お金をためたら農村に戻って商売を始めたり、家をたてたり。でも、そんな第一世代と違って、第二世代は、もう農村には戻りません。出稼ぎ同士で結婚し、共働きで都市に住みます。もしくは、実家から遠く離れたところに嫁いで、親や親戚との関係がほぼ断ち切られた状態となります。

でも、かつての女性たちとは違って、家族や親戚と離れることに慣れているし、それどころか血縁関係から自由になり、個人主義に目覚め、自己啓発のような道に進みます。そして、それをサポート(?)する、あやしげな専門学校や英語学校の林立。かつての田舎から出てきた生徒だった彼女たちが、今度はそんな学校の先生になって、後身の出稼ぎたちをサポートしつつ、お金を巻き上げ(?)ます。

本書には、著者レスリーの祖父や父の世代の話もあって、途中で『ワイルド・スワン』っぽくなります。このあたりがちょっと読みづらいですが、他の中国本にはない興味深い記述もあるから侮れません。例えば、中国の文化大革命が終ったあと、しこりはのこらなかったのか? 迫害した方とされたほうの関係修復は? 名誉回復を求める人々の苦悩や葛藤は? といった素朴だけれど、いままでわかりにくかった問題にも言及しています。

東欧などの共産主義国で迫害された人たちは、決して祖国へ戻ろうとしないそうです。でも、中国人は戻ってきます。それは一体なぜなのでしょうか?

中国に生まれ育った人は「政府も政治もいつだって変わる。いやになったら出国し、よくなったら戻る」とか、「他人をせめても仕方ないし、自分も状況によっては知人を売るかもしれない。しかしそれは生きる術だ」といった人生哲学を、長い混乱した社会の歴史の中で培ってきた人々なのかもしれません。


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