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歴史研究からせまる英雄の実像。『諸葛孔明』立間祥介


『三国志』にはちゃんとした歴史書と、娯楽の『三国志演義』の二種類があって、日本で知られているのは小説の『三国志(演義)』のほう。中でも、一番人気で、有名なのが諸葛亮。字(あざな)は孔明。呼ぶときは諸葛孔明か、諸葛亮。諸葛亮孔明と全部くっつけてしまうと、素人っぽさ全開になるので注意が必要。

諸葛亮は、『三国志演義』では奇計百出の無敵の軍師。孔明といえば、現代ドラマでも頭のいい人の代名詞。でも、実際はどうなんだろうということで、歴史書『三国志』の正史と注釈を中心に立間先生がこの本をまとめたそうです。

立間先生は『諸葛亮伝』をメインにしつつ、三国志のほかの英雄たちのエピソードもまとめているので、物語が前後したり、こんがらがったりせず、中国史が苦手な人にも読みやすい本になっています。

『三国志演義』は日本でもたくさん小説になっているし、映画やゲームにもなっているほど派手でおもしろいです。それぞれの登場人物は、主役脇役を問わずファンがいますし。そういう本に慣れていると、立間先生の本は、最初少し地味に思えます。

でも、シンプルな文章をたどっていく中で、だんだん味わい深くなっていくから不思議。読む側に逆に、想像の余地ができるからかもしれません。いろんな小説の『三国志』の場面を思い出して、あれこれ比べて楽しむことができるのは楽しいでた。要所要所にある古戦場や古蹟の写真も、想像する材料になります。

他の『三国志』関係の本では、劉備や曹操が死んだ後については、さらっと流されることが多いです。それは、劉備の息子が暗愚だと言われる人物なことや、諸葛亮に負け戦が多いことと関係がありそうです。でも、立間先生の本は、その後の諸葛亮についても淡々と語ってるのがいいです。

歴史書といえど古代のこと。歴史の古典だからといって、書かれていることが必ずしも歴史的事実とは限りません。そのあたりのことは、高島俊男『三国志 きらめく群像』(ちくま文庫)なんかを読んでも面白いと思います。


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