見出し画像

絡み合ったケーブルが暗示するもの。映画『最愛の子』香港・中国、2014年。


この映画は、2008年に誘拐された男の子が、3年後に見つかったという実話をもとにしています。深センの町中で誘拐されたポンポン(3才)。慌てて探した父親ティエンですが、警察は24時間たたないと捜査に着手できないといいます。そのせいで、ポンポンは駅から遠い場所へ連れ去られてしまいました。残されたのは、監視カメラの映像だけ。

インターネットで捜査への協力を呼びかけると、懸賞金目当ての詐欺師たちが偽の情報を持ちかけて、ティエンからお金を奪おうとします。中国社会のえげつなさがこれでもかと突きつけられる描写です。子どもを探すために、親はお金も気力も使い果たしてしまいます。

ティエンとジュアンは離婚していましたが、息子を探すために2人で必死に探しました。でもジュアンの現在の夫は、彼女の苦しみに100%同情できず、自分たちも子どもをつくろうと言い出します。そんな中、ティエンとジュアンは子ども誘拐の被害者互助会に参加して、仲間との協力で子どもを探そうとします。

当時は中国で一人っ子政策が実施されていたので、第二子をつくるには第一子の捜索を諦めて「死亡届」を出さないといけません。それを拒否して、絶対に子どもを探そうとがんばる親たち。でも、手がかりはありません。

中国では一人っ子政策のせいで、女の子しか生まれなかった田舎の家が男の子を欲しがって子どもを買ったり、子どもができないから老後のために子どもを買ったりする人たちが大勢います。それ以外にもいろんな理由がありますが、中国では毎年20万人が誘拐されるというから驚きです。

ティエンとジュアンは、3年の苦労の果に、遠く離れた安徽省の農村で息子ポンポンを見つけます、彼は6才になって、すっかり両親を忘れていました。そして、自宅に帰っても、育てた女性ホンチンを母親だと信じて恋しがり、なかなか懐こうとしません。彼が唯一、心を許すのは「妹」として育った女の子。彼女もホンチンの夫が誘拐してきたらしく、親を探しても見つからないので、深センの児童施設で生活することになりました。

ジュアンは自分を忘れてしまったポンポンのために、妹も一緒に引き取ろうかと提案します。しかし、現在の夫がそれを受け入れず、離婚。ジュアンの養子縁組が暗礁に乗り上げてしまいました。かといって、ティエンと元の鞘におさまるとか、そういう単純な話にもなりません。

一方、養母だったホンチンは、深センに娘を探しにやってきますが、児童施設に拒否されます。例え、夫が誘拐した子どもだと知らなくても、ホンチンに子どもは返せない、都会の方が子どもの教育環境がいいという理由です。

そこで、ホンチンは弁護士をたよって交渉しようとしますが、亡くなった夫の友人に裁判で有利な証言をしてもらうためにした行為のおかげで、妊娠してしまいます。ホンチンは今になって、夫が自分を「不妊症」と騙していたことを知りますが、一人っ子政策では、お腹の子どもか育てた娘か、どちらか一人を選択しなければいけません。

子どもを誘拐された元夫婦、誘拐を知らずに育てた養母に対して、監督のピーター・チャンはわかりやすく被害者と加害者のレッテルを張りません。それぞれがみんな被害者です。一旦絡まった負の連鎖は、二度ともとに戻れません。深センという都会の路地裏の張り巡らされたケーブルの束が、それを暗示しているかのように何度も映し出されます。

警察や福祉施設のお役所仕事。農村と都会の経済格差。子どもが欲しければ誘拐してしまう人。お金が欲しくて子どもを誘拐して売る人。そして、誘拐の被害者からお金をむしり取ろうとする人たち。以前見た映画『薬の神じゃない!』でも思いましたが、中国は本当に、「普通に生きる」ことが大変です。

映画は辛い内容ですが、サスペンスのように先が見えないし、なにより内容がすばらしいので2時間越えもあっという間。見ごたえがあります。さすが、ピーター・チャン監督。そして、この映画の公開の翌年、一人っ子政策が廃止になったことだけが救いです。

邦題:最愛の子(原題:最愛的)
監督:ピーター・チャン
主演:ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、ハオ・レイ、トン・ダーウェイほか
制作:香港・中国(130分)2014年


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?