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 あられもない祈り 著:島本理生

 結局は不倫の話だった。大学で助手をする同棲してる彼氏ではなく、会社を自営してる年上の大人に恋をする主人公が一人称で話しを繋いで行く。名前は現れない。あなたと私だった。

 幾分難しい文章だった。情景描写や心象描写は富んでいたが、あなたと表現される社長とその別荘と恋人との別れの為の引越し、そのあとで何度も身体を合わせた半年が微熱のように続く物語だった。性に対して喜びも悲しみも無かった女性がそれを不倫相手で知るのだ。両親は娘に仕送りを要求し、父は末期の病院生活。それに血のつながりは無い。複雑な家庭生活から自立するも足を引っ張られるように恋をする主人公は切なかった。

 自傷行為も幾らかある。叶わないと分かりながら進める恋に昔の恋人を振り切って引っ越すまで、そして引越しても長くは続かないとその終わりを一人の旅行で締め括ってる。しかし、微熱に浮かされてるように、最後は別荘へ向かい、手前の駅で降りてしまい逡巡した挙句、上りか下りかもわからずに列車に飛び乗る所を描いてエンディングだった。

 表題の通りだ。あられもない祈りだった。叶うとか叶わないではなく、あられもない関係を終わらせても終わらせ切れない二人の末路は描かれはしなかった。島本理生さんの著作は純文学よりだな。筋書きが面白いとかではなく描写が繊細で痛々しいくらいの心象を抉る描写で貫かれている。それと機能不全家庭で苦しむ主人公と言うのも島本理生さんが描こうとするテーマとして一貫している。それは自身の体験から来るものかアウトサイダーを描くのが上手なのかは紙一重でわからない。

 幸せな主人公の幸せな日常を描いても文学にはならないだろう。不幸と言うスパイスが効いた恋愛模様は島本理生さんにしか書けない作品なんだと思いました。

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