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足跡 【今日の短歌】【ショートストーリー】


どの子かな少しほっこりルーフからフロントガラスに続く足跡


父親を駅まで迎えに行くために車に乗る。
運転席に座って前を見ると、フロントガラスの上の方に猫の足跡が付いていた。
自分の車は隣の家との境の塀ギリギリに駐めているから、その塀から車の屋根に移った猫が、フロントガラスから下に降りようとしたんだろう。
ガラスの傾斜で滑ったらしく、ガラスの中程に向かおうとして、滑った跡がついていた。
小さい足跡だから、もしかしたら子猫なのかもしれない。

近所ではたまにノラ猫を見かける。
猫が好きだから見かけると嬉しい。
だが、昔より畑と公園が減って建売住宅が増え、それとともに外で見る猫の数も減った気がする。
野生動物の寿命は短い。
ずっと同じ場所に住んでいると、見かけなくなる猫もいる。

……それは、人もそうか。

以前はよく、車のフロントガラスに足跡が付いていた。
多分同じルートを探索する猫がいたんだろう。
俺は猫が好きだし、車は移動手段で乗れれば良いと思っているから、足跡がついていても気にならなかった。
むしろ、なんとなく嬉しかった。
うちは母親が動物嫌いだから、猫を飼うことはできなかったから。
その足跡がつかなくなってどれくらい経ったんだろう。
気がついたときにはつかなくなって、そんなことがあったのも忘れていた。

親が30歳になる直前に今の場所に売られていた中古の家を買い、俺が生まれて、そのまま育ち、今では俺は当時の親の歳をとっくに過ぎている。
子どもの頃の近所のおじさんおばさんは、もう殆どいない。
昔あった家が無くなって、同じ場所に複数の家が建って、知らない家族が住み始める。
それに慣れてくると、前にいた人のことはあまり思い出さなくなる。

車に猫の足跡がついたのは久しぶりだ。
また、ここを探索ルートにする猫が出てきたのかもしれない。
突き当たりの家の付近で、小柄な猫を何匹か見かけたから、あの中のどれかだろうか。
できればしばらくの間、フロントガラスに足跡がつけられる日が続くといい。
そんなことを思いながら、駅に向かうためにエンジンをかけた。


こんにちは。羽根宮です。
羽根宮の家の周りには、少しですがノラの猫がいます。
なので、車に乗る前にボンネットをコンコンコンと軽くノックしてから乗車します。
今までエンジンルームに猫が入っていたことはありませんが、念のため。
自動車ディーラーに勤めていたことがあり、悲しい出来事の話を聞いたことがあるため、そのようにしています。

夏が終わり秋が来て、その後冬が来ると、外にいる猫が心配になってしまうのですが、どうすることも出来ないのがもどかしい。
せめて願うだけでも。

羽根宮の家の周りは昔から住む人と、新しく来た人の二極化が進んでいるようです。
庭のあった大きな家が無くなり、そこに複数の家が建ったりしています。
畑もほとんど家になりました。
先日、いつ以来か分からないくらい久しぶりに伯父がうちに来たのですが、風景が変わりすぎていて曲がる場所が分からず、ぐるぐると回ってしまったと言っていました。
そうやって日々、何かしら変わっていくのですね。

読んで下さってありがとうございました。
羽根宮でした。


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