「すずめの戸締り」はエンタメの力技でグリーフケアしてくる
2022年の劇場用長編アニメーション映画「すずめの戸締り」(新海誠監督)は、11月11日という公開時期にも関わらず2022年の年間興行収入ランキング3位という記録を打ち立て、2023年2月現在も上映が続いているロングランヒットとなっている。
新海誠監督の前作『天気の子』が公開された2019年、【『天気の子』が般若心経な3つの理由】というエントリを公開し、「新海誠は令和時代の<仏教伝道者>だ」と記した筆者にとって、最新作にはどんな宗教的な要素が織り込まれているのか?観逃せるはずもなく、公開直後に映画館に駆け込んだ。
結論から書こう。
新海誠作品、それは、
「劇場で観ている時は感動して涙が止まらないのに、数日経つと、どんな内容だったかサッパリ覚えていない」
という、類まれな作品群だ。思い返せば、過去作もすべて、観ている時は心震えるのに、数日経つと覚えていない。(※過去作すべて鑑賞済み)
「すずめの戸締り」鑑賞から3ヶ月が経った今、正直、ほとんど内容を思い出せない。確かに、映像は美しい。音楽の効果も最大限に活用し、映画館の巨大スクリーンと立体音響で体験するとこちらの涙腺をこれでもかと刺激してくる。
そして何より特筆すべきは、映画の骨子となる東日本大震災との関係だ。公開まで作品内容は伏せられていたため、事前情報がないまま劇場に足を運んだ筆者は正直面食らった。当時を思い出して胸が早鐘を打ったし、被災当事者にとっては寝耳に水で、フラッシュバックを起こされた方もいるのではないか。それほどまでに正面から震災を描いていたし、あの日からもうすぐ13年、ここまで3.11を描いた作品はなかったのではないか。
来場者先着特典で配布された小冊子「新海誠本」では、監督自らがこの映画について「場所を鎮める」「場所を悼む」「震災文学の流れ(中略)それをオリジナルのアニメーション映画として、メジャーな規模で公開されるエンタメの枠組みで作ったということに、今回の僕たちの仕事の意味があるはず」などと語っている。そう、「すずめの戸締り」は、エンタメの姿を借りたグリーフケアなのである。
鑑賞中は心震える。今作でも宗教的な・民俗学的なモチーフが多用され、それらが仕掛けとなって、「行って・帰ってくる」という、物語の基本構造が示される。エンタメ作品の力技でグリーフケアさせられて「映画を観て・観終わると」、今生きていることがどれだけ尊いことか、力技で教え込まれる。この作品を観て、日々を大切に生きよう、と思わない人はいないだろう。
ところが数日すると、すっかり忘れているのだ。いや、これは忘れるのではなく、「生への祝福が内在化される」といった方が正確なのかもしれない。
とにかく、未見の方は劇場でご覧になることをオススメしたい。新海誠マジックを堪能された上で、筆者の言わんとするところがお分かりいただける筈だ。
Text by 中島光信(僧侶)
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