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育休プチMBA 10周年記念セミナー【採録②~育休期間を利用した復職支援プログラムの内容と効果に関する研究】

育休プチMBA®は2024年7月に10周年を迎えました。

7月5日に開催した
「育休プチMBA」10周年記念セミナー 
育休取得者・復職者に向けた、企業の「活躍支援制度」の果たす役割とは

から、国保祥子の講演部分を3回に分けてお届けします。

【採録①~育休プチMBAの始まり】はこちら



育休期間を利用した復職支援プログラム

国保:ここからは、復職支援プログラムとその効果について具体的な説明をさせていただきます。論文がオープンアクセスになっておりますので、ご関心のある方はお読みいただくこともできます。

この復職支援プログラムは、基本的には育休プチMBAと同じスタイルなんですけれども、育休プチMBAでもある程度の継続受講が効果を出すのに重要だったので、4回のワークショップをセットで提供させていただきました。

この4回のワークショップを企業横断的に人事部の方から告知いただく形で参加者を集めまして、ワークショップの参加前と参加直後、それからワークショップ後の育休復帰前、さらに育休から復帰して半年の段階でそれぞれアンケート調査をさせていただいてます。

復帰後の調査はご本人だけでなく、その方の上司にもアンケートにご協力をいただきまして、客観的にその育休者を評価していただきました。

同時に、こちらのワークショップの参加者は手上げ式で募りましたので、ここで手を上げなかった人たちにも調査をさせていただいてます。なので、案内は受け取ったけれど参加をしなかった人たちの初期値をワークショップ参加者と同じタイミングで1回、それから復職前のタイミングでもう1回調査をさせていただいて、参加者と非参加者の間にどういった違いがあるのかということも調査をしています。

アンケートの調査タイミング

復職支援プログラムのカリキュラム

カリキュラムは全4回で、1週間に1回ぐらいのタイミングで実施をしています。ケースを使ったプログラムなんですけれども、視座を少しずつ本人から上司、そして他部署や取引先のように視座をあげるというか、広げるというか、変えるように意識をしておりまして、これを4回受けることによって、こう少しずつ視座が高くなっていくことを目指して実施をしたカリキュラムです。

復職支援プログラムのカリキュラム

復職支援プログラムの効果

このプログラムの受講前後でどういった変化があったかということをプログラムの効果としているんですけれども、大きく3つあります。

ひとつは復帰後の家族と仕事の干渉への懸念、要は、両立後の生活への不安ですね、これが優位に減少しています。一方で、仕事と家庭を両立できそうだという両立に関する自己効力感、ちょっと縮めて両立効力感という呼び方をしますけれども、この両立できそうだという気持ちも優位に増加、また管理職をやっていけそうだという管理職に関する自己効力感も優位に増加していることが確認できました。

プログラムを受講することによって、両立後の不安が減り、自分はうまくやっていけそうだという自信と、管理職になってもうまくやっていけそうだという自信が高まったということが確認できました。

復職支援プログラムの効果

育休中に不安が減ると復職後にどのような効果があるのか

もうひとつ、これは復職半年後の調査に基づいておりますけれども、実際に育休中にどれくらい不安が減ったかということも重要なんですが、育休中に不安が減ったということが復職後にどのような効果があるのかというところが重要かと思いましたので、半年後の追跡調査をさせていただいてます。

復職半年後に調査をしたところ、分かったことは、研修後に両立に関する自信を高めた人たちというのは、この半年後の時点でですね、上司から評価しても役割遂行パフォーマンス、つまり、メンバーとしての役割をよく果たしてくれているということに優位な正の効果があることが分かりました。なので、復職前に自信を高めた人たちというのは、実際に復職してからも活躍していたということが確認できたということになります。

この活躍もですね、ひとつ大きいのは、チーム内の役割遂行パフォーマンスであるということでして、本人が自分の仕事をしっかりやることのみならず、チームに対する貢献行動みたいなものが確認できているところが大きなポイントかと思います。自分の仕事をしているだけでなくて、効力感を高めた人たちの方がチームのことを意識して動けている、それが上司から見てチーム貢献行動が評価できる状態にあるということが分かったと言えます。なので、復職前の自信を高めるということが復職後の活躍につながっていると言えると思います。

復職支援プログラムは役割遂行パフォーマンスにも効果が

復職支援プログラムに参加しなかった人の場合

このプログラムへの参加者と非参加者はですね、初期値はほとんど変わりません。同じぐらい不安という状態ですね。

なんですけれども、プログラムの参加者が、その後受講をして、そして復職直前になってこの不安が減ってきているということに対してですね、非参加者は復職直前、さらに不安が強まっているということが分かります。

同時に両立への効力感、うまく両立できるんじゃないか、できそうだという見通しについても、こちらはワークショップ参加者はもともと比較的高いんですけど、それがさらに復職直前に具体的に復職が視野に入ってもさらにこの効力感が高まっているのに対して、非参加者の方は復職直前になると、さらに効力感は下げているという状態でした。

なので、このプログラムに参加しない人たちというのは、さらに不安を高めた状態で復職を迎えているということが分かりまして、それがいろんなところの課題につながっていくのかと思います。なお、非参加者の属性を確認すると、家族の支援が低いという傾向がありまして。なので、家族の支援がないということが、この両立の不安とか両立への自信を低めたりとかそういったことに繋がっているという可能性は考えられます。

復職支援プログラムへの非参加者との比較

育休復職者の「ライフゲージ」を考える

この現象をどのように説明できるのかというところでですね、資源保存論という理論がありまして、この理論で説明できるかなと思います。ここでいう資源保存論というのはですね、個人的な資源を獲得保持・保護しようとしたり、資源を失うことが怖く、失うことによってストレスを感じるという理論なんですけれども、もうちょっと分かりやすく説明するとですね、要はゲームでいうところのHPやMP、あるいはライフゲージや体力ゲージというものを想像していただくといいかなと思います。

人というのはライフゲージという資源を持っていて、その資源が減ってしまうと、攻撃に出ることができなくなります。だけど、その後ライフゲージが増えていくと、より積極的に攻撃、というか攻めに出ることができるようになっています。なので、このライフゲージを適切な高さに保っておくということが極めて重要なんですけれども、これから復職を迎えて両立生活ということを考えた時に、「今のライフゲージでは難しいんじゃない?」というところが復職者としては不安になりますので、そうするとその不安な状態というのは、自分のライフゲージをもうこれ以上減らさないようにしよう、と守りに入ってしまうという現象があります。

一方で、今回のプログラムに参加していただいた人達は、両立の自己効力感を高めることにつながっているので、要はそのライフゲージを回復させることができている。で、このHPだったりMPが豊富な状態で復職することができると攻めに転じることができるので、周りへの貢献行動のようなですね、将来の自分への投資行動、将来の自分のライフゲージへの投資行動ということをすることができるということが考えられます。

なので、この自分の資源、ライフゲージをですね、いかに高い状態にして復職してもらうかということが、その後の、さらに資源を広げるための貢献行動をするのか、それとも守りに入るのかということを分けてしまうのではないかというのが私たちの分析です。

資源保存論で育休復職者の心理状態を説明してみる。
いかに高い「ライフゲージ」で復職してもらうかがポイント

育休プチMBA 10周年記念ウェビナー【採録③~今後の女性活躍支援への提言・多様性と管理体制の概念モデル】に続きます。


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