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育休プチMBA 10周年記念セミナー【採録①~育休プチMBAの始まり】

育休プチMBA®は2024年7月に10周年を迎えました。

7月5日に開催した
「育休プチMBA」10周年記念セミナー 
育休取得者・復職者に向けた、企業の「活躍支援制度」の果たす役割とは

から、国保祥子の講演部分を3回に分けてお届けします。



はじめに

司会・橋本:皆さまこんにちは。暑い日が続いていますけれども、いかがお過ごしでしょうか。今日はワークシフト研究所主催「育休プチMBA 10周年記念セミナー」にご参加いただきましてありがとうございます。

2014年に誕生した育休プチMBAはこの10年、女性を中心にスムーズな復職と活躍支援を提供してきました。ここ数年では、男性育休への関心の高まりもありまして、企業の福利厚生としての導入事例も増えています。そこで、今日のセミナーは、前半は育休プチMBAの創設者でワークシフト研究所 所長でもある静岡県立大学の国保祥子准教授が最新の研究についてご紹介します。

また、後半では育休プチMBAを導入した企業の人事担当者様をお招きして、導入の背景であるとか、導入後の変化などについてお話を伺っていきます。申し遅れましたが、本日司会を担当いたします、私は育休プチMBA 認定ファシリテーターの橋本恵子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、前半は国保祥子准教授が最新の研究についてご紹介します。国保さん、よろしくお願いします。

司会を務めた育休プチMBA 認定ファシリテーターの橋本恵子さん

ごあいさつ&自己紹介

国保:ご参加の皆様はじめまして。育休プチMBA代表をやっております、ワークシフト研究所 所長の国保祥子と申します。本日はお集まりいただきましてありがとうございます。

最初に私の方から育休者のワークショップ支援に関する研究について、ご説明させていただきたいと思います。育休プチMBAは気づけばもう10年ということで、この10年の集大成のひとつとして、データを蓄積してそれを分析して、どのような効果があるかというエビデンスが揃ってまいりましたので、そこを今日は皆さんにお伝えしたいと思います。

私の専門は経営学です。ですので、こういった復職支援の取り組みも、経営的にどのようなプラスの効果があるのか、経営を前提としたときに人をどのように動かすとか、育成するとか、そういうところに専門性がございます。

ワークシフト研究所 所長の傍らで、大学で研究や教育をやっておりますので、今日ご紹介する研究も投稿論文用に、きちんと研究手法にのっとって集めたエビデンスがもとになっています。

近年は、厚生労働省のイクメンプロジェクトだったり、内閣府の男女共同参画といった政策提言の現場にも参加させていただくことが多くなっておりまして、こうした研究と実践を踏まえて様々な意見を述べさせていただいております。

元々は2007年ぐらいから、MBAを取った後、長らく企業の管理職やリーダー育成に携わらせていただいていました。いわゆる上司にあたる人たちに向けた経営教育というのをやってきました。その後、2014年に自分の育休をきっかけに育休プチMBAを立ち上げることになりました。

この育休プチMBAというのも、私はそれまでに培っていた管理職教育だったり、リーダー育成のノウハウだったりということを踏まえて開発したものです。なので、そういう意味では会社と育休当事者の方との橋渡しをするということが、重点的に意識されたプログラムになっています。この育休プチMBAをベースに、翌年小早川を代表としてワークシフト研究所を設立するに至りました。

国保祥子の経歴

育休プチMBAを立ち上げたきっかけ

企業と育休者はなぜすれ違うのか?

では、少し育休プチMBAを立ち上げたきっかけについてお話ししたいと思います。この育休プチMBAという活動は、私のそれまでの管理職とかリーダー育成の経験と、自分が育休を取った時のある出会いから生まれています。

もともとリーダー育成の現場にいた時に企業の人事部から頻繁にこういう愚痴を聞きました。リーダー育成、リーダー研修の場なんですけども、ほとんど女性がいらっしゃらないんですね。女性が全くいない現場もよくありまして、それをなぜかと尋ねた時にですね、「女性社員はこうした研修を企画しても手を挙げて参加しないし、リーダーや管理職にもなりたがらない傾向が強い」と。「独身の時は頑張り屋でも、出産後によく休むし早退したりするので、あまりやる気がないのかな」ということを人事部の方からよく聞いたんですね。なので、私も「そんなものなのかな」と思ってたところがあります。

ただ、2014年に自分が育休を取ることになりまして、その時に第二子育休中のママ友ができました。このママ友の相談が、私にとっては目から鱗が落ちるものだったんですね。というのも、「保育園のお迎えに行くので、第一子の出産後に残業ができなくなった。残業ができなくなったら、逆に営業成績がすごく良くなって、成績が良くなって成果が出せるようになったら、仕事が楽しくなった」と。

「だから、今回の2回目の育休を活かして仕事に役立つような勉強をしたいと思っているのだけど、赤ちゃんを連れて行けるところがなくてちょっと困っている」という相談を受けたんですよね。

このふたつの相談を聞いた時に、「もしかして企業に見えている世界と、子供を育てながら働いている人材に見えている世界というのは、実はこう、すごくずれているのではないか?」と思ったことが直接的なきっかけとなりました。

人事のぼやきと、ママ友からの相談の「ずれ」に目から鱗が落ちた。

なので、その「ずれ」を追求したくてですね。なぜずれているのか、そのずれはどうしたら解決できるかということを知りたくて、この育休中のママ友の相談に応える形で立ち上げたのが育休プチMBAです。

赤ちゃん連れで参加できるセミナー「育休プチMBA」を2014年7月にスタート

経営学ベースの教育を赤ちゃん連れで学べる勉強会ですね。こうした場を社会実験的に始めて、そして続けたことでいくつか分かってきたことがあります。

育休プチMBAをやってみて分かったこと

【その①】育休復職者の「強い不安」が権利主張型のコミュニケーションを生み出していた

まず、育休を取って仕事を続けようとしている人材というのは、潜在的に極めて貴重な人的資源なのではないかということです。実際にこの勉強会に集ってくださる方を見ていると、育休中の方も仕事に対するモチベーションが非常に高いということがよく分かりました。

ですが、一方で不安。特に復職後の生活に対する不安が極めて強いという状態です。なので、モチベーションは高いけれど、一方で不安も強いので、会社にそれをうまく伝えたり、コミュニケーションをするということがなかなか難しいんだなということがよく分かります。

育休中の方というのは、まだまだ管理職手前の人が多い、あるいは多かったので、管理職目線をまだ培っていない方が多くてですね。復職への不安と、会社からどう見えるかという会社目線の欠如が合わさることによって、権利主張型のコミュニケーションになりやすい。そう意図しているわけじゃないんですけれども、そう聞こえるようなコミュニケーションをしてしまい、会社とのミスコミュニケーションにつながりやすいということが分かりました。

実は育休者の方というのは、「モチベーションが高いけれど不安が強い」だけなんですが、会社から見ると不安が強いのか、モチベーションが低いのか、というのは判断がつかないので、「モチベーションが低くなっているんだな、やる気がなくなっているんだな」と判断をされてしまうことが多いということも分かりました。

一方で、企業の方もですね、これは特にここ数年の傾向ですけれども、ハラスメントになることを恐れて、コミュニケーションがどうしても遠慮がちになってしまう、もう少しこうしてほしいという要求をストレートに伝えにくくなっているということもひとつの理由としてあります。

【その②】企業と育休者のミスコミュニケーション回避には会社・経営者目線、マネジメント思考が有効

これは元をたどるとですね、日本企業の多くが採用しているメンバーシップ型雇用との不適合だと思っておりまして、このメンバーシップ型雇用というのは、例えばその仕事の内容だったり、勤務地、そして労働時間、要は残業を無限定に受け入れますよ、その無限定性を重要視しますよ、ということを暗黙の了解とする雇用スタイルです。

ただ、子供を育てながら働く人たちというのは、この無限定性を受容しにくいので、その受容しにくいという事実をもって、自分がそのメンバーとこの組織のメンバーとして不適合であるということを暗に感じてしまって、罪悪感を募らせ、その罪悪感がその人のパフォーマンスを下げてしまうということが分かってきました。

なので、モチベーションが低い人をあげるというのは結構難しいんですけれども、モチベーションはある、けれども、コミュニケーションの問題でうまくいかない、うまくチームとして機能できないということなのであれば、そのコミュニケーションを改善すればいいのではないかと。

育休の復職者と企業のこのミスコミュニケーションを回避することができれば双方ハッピーになるのではないかと思った時に、この鍵がですね、会社目線、マネジメント志向、あるいは経営者目線での教育にあるという確信を得るに至りました。

育休プチMBAを通して実践とデータで分かったこと

【その③】両立生活は、当事者の考え方次第で辛くもなるし、楽しくもなりえる

実際に、こうした育児と仕事の両立の捉え方というのはいろんな研究がありまして、決して大変というだけではないということも分かってきたんですね。よくあるのは、ワーク・ファミリー・コンフリクトという役割間葛藤―― ふたつの役割を果たせない、時間が足りないというようなコンフリクトのこと―― はよく話題に上がりますけれども、同時にですね、ひとつの役割がもうひとつの役割の質を向上するというエンリッチメントという考え方もありまして、この両方、育児をしながら働いているからこそ得られる充実感というのは、物理的な資源ももちろんなんですが、スキルとか視点とか心理的な資源とか、要はその人の意識の持ち方次第でエンリッチメントに転じるということも分かってまいりました。

あとインテグレーションという考え方もありまして、ワークとライフをどのようにインテグレート、統合することで満足度の高い生活が送れるかというところもですね、例えば、境界管理スキルや権限や裁量といったもので上手く統合できるということも分かってきまして、この両立生活を楽しめるかどうかは、個人の意識の持ち方次第で辛くもなるし楽しくもなりえるのではないか、というのが仮説として浮かび上がりました。なので、そこを追求しよう、研究してみようと思った次第です。

両立の捉え方は意識次第

育休者の復職後の活躍を規定する要因

復職後の活躍を規定する要因というのはたくさんあります。組織要因――会社の方が制度を整えるとか、会社の風土をきちんと作っていく、特にその上司の支援スタイルなどが影響するという研究も実際にあるんですね。

なので、個人の方だけに責任を求めるということは間違ってはいるんですけれども、会社側が復職しやすくなる、復職後に活躍しやすくなるような制度を整えているという前提で、最後にプラスアルファで個人要因としてどういった要素を変化させることによって、より就業を継続するだけでなく、健全な昇進意欲を持ちながら働き続けることができるかというところを研究するに至りました。

育休者の復職後の活躍を規定する要因

育休プチMBA 10周年記念ウェビナー【採録②~育休期間を利用した復職支援プログラムの内容と効果に関する研究】に続きます。


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