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ひつじにからまって

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ひつじにからまっているものがたりたち
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#夢

シリコン製の山を下る悪魔

シリコン製の山を下る悪魔

 何か報われない夢を見て、なんとなくやるせない気持ちになった。こぼした牛乳をぞうきんでふき取り、それを飲む夢だったんだ。しかもそれは、誰かに強制されたものでなく、夢の中の自分が自発的にやったんだ。
 どうしようもない、そんな言葉が似合う状況だったね。朝起きた時には、涙なんか流して、これはなんだって思ったもんだよ。

「シリコン製の山を下る悪魔は、雑草に恋をした」

 夢を見ているとき、誰かにそうさ

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雲間をのぞく

雲間をのぞく

靴下は重ねて履いて、マフラーは忘れずに。ニット帽は臭くないかな、あとは小銭を少し。ああそうだ、手袋どこやったっけ。

「そわそわして、何してるの?」
「星を見に行くの」
「辛くなったりしない?ほら、宇宙に行くことが夢だって」

彼は心配性で優しいのだけど、ところどころ無神経な部分を見せてくる。そりゃ事務職のアラサーが、宇宙飛行士に今からなることは難しいだろう。でも、わざわざ聞いてくることもないだろ

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そらでおぼれろ

そらでおぼれろ

空で溺れる夢を見た。どれも縁がないことは確かだけど、こう何年にもわたって同じ夢を見続けるとなれば、どこか暗示のようなものを感じる。

「やっぱり、忘れられないのか」

漏れる言葉の受取手はいない。いや、もう一眠りしたあとでならいるだろう。まだ六時にもなってない。他人の家を訪ねるには少しばかり時間が早すぎるのだ。

風に吹かれて袖を流すあいつを思い出すと、なんだか苛つく。気取るな。お前はもっと、違う

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枕の下に

枕の下に

枕の下には、白い紙を入れている。写真を入れたらその夢を見ることができるらしいが、あえて写真を入れやしなかった。

朝起きて、枕の下の紙に目を通す。やっぱりだった。眩しくて大きな月が、夜空いっぱいに広がっている。
それを草むらでわたしはウサギの姿になってぼんやりと眺めている。

「何見てるの?」

母さんがたずねてきた。でも、わたしはたぶん、打ち明けることはしないだろう。

「ひみつ」
「ふーん」

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いまはまだ

いまはまだ

新しい夜を迎えると、楽しい朝を夢に見る。ぼくの夢は大抵が朝だった。
夜が深くなると、夢を見なければいけないことが嫌だった。夢の中のぼくはいつも朝を迎えてたせいでずっと起きているような心地がした。

「おはよう」

母のこの声だけが、ぼくがきちんと起きていることを教えてくれる。それからのにおいはよくはわからない。あんたには情緒がないとか言われるけれど、夜のないぼくに情緒なんてあるのだろうか。

「お

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夢を食べる蜘蛛

夢を食べる蜘蛛

夢の世界はすべて繋がっている。
蝶の背中を追いかけながら、蜘蛛はその言葉を思い返していた。

「別に僕は、好きでこんなことがしたいわけじゃないんですからね」

蝶は何を思ったか、ありもしない聞き手に対して言い訳をした。発作が起きればおどろかされ、調子が悪ければ会話のできない蝶の相手は蜘蛛にしてみれば面倒だった。しかし、蝶よりも夢の世界の渡り歩き方を熟知しているものもいない。

「ほら、着きましたよ

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夢持ちのいい枕

夢持ちのいい枕

それは夢持ちのいい枕であるとか。進められて買ってみたものの、どうにも信用ならなかった。そもそも店主が胡散臭い。疑ってくださいと言わんばかりに丸いサングラスをかけ、黒い帽子を被っている。

「いい夢かはわからないものの、あなたの夢に秩序が生まれるかもしれません」
「それって、いい夢って言えるのか?」
「使用した人次第で答えは変わります」

うっすらと透けて見えるサングラスの向こうには、口調の柔らかさ

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シャボンの夢が破れたら

シャボンの夢が破れたら

好きなことをしている彼女はとても素敵で、僕は上手でもないのに一緒になって絵を描いた。

「君の方が上手だね」

カシュガイのような絨毯を真似して描いてみたり、ふたりで一緒に近所の子供達と飛ばしたシャボンを描いてはぼくは彼女にこう言った。
彼女はそれをとても喜んで、その都度僕にキスをしてくれる。

「わたしはあなたより描いた時間が長いから、そう思うだけよ。あなたがうんと天才だったらまた違うのでしょう

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