日下菜穂子

「長く生きるよろこびをつくりあう」ワンダフル・エイジングプロジェクト主宰。同志社女子大…

日下菜穂子

「長く生きるよろこびをつくりあう」ワンダフル・エイジングプロジェクト主宰。同志社女子大学・教授。老いの価値創造学・老年心理学が専門。著書『ワンダフル・エイジング:人生後半を豊かに生きるポジティブ心理学』,『人生の意匠(デザイン)』など。

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シェアダイニング:食とテクノロジーで創るワンダフル・エイジングの世界(2023/3/10発刊)

「一番大切なものは目に見えない」といわれます。食の「おいしさ」も見えないもののひとつでしょう。そんな見えないものを見る力を育み、つながりの中に希望を創造する食の場をシェアダイニングとよんでいます。 人間は創造の喜びを通して希望を持ち続けてきました。たとえば神話の世界を夜空に描く星座のイメージは、古代から今に受け継がれています。それは星々をつなぐ空間に意味を見つけた人が、その喜びを語ったことに始まります。喜びの共感を通して見えない想いが伝わり、やがて感動を共有する人々の間に、

    • 上善如水

      3ヶ月に1回くらいのペースで新聞の随想欄を担当しています。随想が載ると、必ず見つけて後日にコミュニティーのグループラインに送ってくれるのが、メンバーのKさんです。きちんと切り抜いて、撮影して送ってくれる丁寧な仕事ぶりに、Kさんらしい心遣いがあふれています。そんなKさんをはじめ、読んで応援してくれる皆さんのおかげで、10年間も続けてこれたんだなぁと、しみじみ感じます。 5月の随想は、大阪のホテルで実施するウェルカムおにぎりについて、そのメインコンセプトの上善如水がテーマです。

      • つくって食べよう!

        配偶者が先立つと、日常の食事が大きく変わる。女性は料理の頻度が減り、栄養バランスが乱れる傾向がある。これは、調理の意欲が相手のいないことで低下するためとされる。男性の場合は特に、栄養不足や食習慣が不規則になりがちだ。その結果、病気や持病の悪化につながることもある。  私の父は伝統的な昭和男子で、母に家事を任せて、自分では電子レンジすら使ったことがないほどだった。その父がこの冬、突然一人になった。60年来の連れ合いを亡くし、父は深い悲しみと同時に、身の回りのことをどうしていい

        • ブリコラージュ

          日本一長いとされる大阪の天神橋筋商店街で、2日間のゼミ合宿を行いました。学生たちが商店街の人たちと出会い、商店主の人たちの話すおすすめの食材を集めて料理をします。急ごしらえではありますが、食べモノを通して街の人びとの想いを受け取り、作った料理の感動をレシピに加えて冊子にします。想いをつなぐことの本質を体験を通してわかる、というのが合宿のテーマです。 集まった食材は、手作り豆腐や青パパイヤ、塩昆布、バターナッツかぼちゃなど全部で20種類以上です。合宿1日目には、それらの食材を

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        シェアダイニング:食とテクノロジーで創るワンダフル・エイジングの世界(2023/3/10発刊)

          水晶の弾丸

          「母の形見 水晶の弾丸 輝く腕に」 右の一文は、生成AI(人工知能)がシニアの思い出話を元に作ったものです。生成AIというのは、コンピュータープログラムが学習したデータを使って、自分で問題に答えたりできる技術です。最近の急速な発展で、私たちの日常生活でもAIはますます身近になっています。 対面での多世代交流も少しずつ行えるようになっています。そこで、「AIと思い出話をして俳句を作ろう!」というイベントを大学で開催することになりました。参加者はシニアと大学生の約30人で、学

          水晶の弾丸

          キッチンカーを見かけたら

          大学にキッチンカーがやってくる。春学期が始まったばかりの校舎の入り口に、キッチンカーの登場を知らせるポスターが貼ってあります。学生たちの注目を集めているメニューは、ヤンニョムチキンやローストビーフオーバーライス。決して、鳥の唐揚げとか牛丼とかの定番の料理名ではよべないようなおしゃれな雰囲気があります。キッチンカーは調理設備のある移動式の販売車で、最近では都市部を中心に人気が高まっています。行く先々の土地柄や気候に合わせて異なるメニューを提供できるのが特長で、オーガニック食材を

          キッチンカーを見かけたら

          発酵する未来

          想像からはじまる未来の体験を一緒につくろうと、大学生が小学校の授業に出かけました。地球環境の保護など、持続可能な開発目標(SDGs)をテーマにした総合学習の時間です。自分達で考えた理想の未来を、人型ロボットのペッパーにプログラムして、ペッパーの言葉や動きで他の小学校の児童に伝えます。この難しい課題に、プロジェクト型の科目の一環で、大学生が企業や自治体と協力して取り組むことになりました。 理想の未来には決まった答えがないので、何が起こるかわかりません。授業計画を立てても、それ

          発酵する未来

          ホラーの楽しみ方

          夏の新しい暑さ対策に、ポータブル扇風機が人気です。大学の教室でも、机の上や学生たちの首元に、小さなファンのついた扇風機をこの夏よく見かけました。一方、昔から変わらない納涼が、怪談やお化け屋敷などの背筋が寒くなる体験です。実際に寒気を感じるからというよりも、夏の風物詩のひとつとして怖い体験が楽しまれています。 私は怖いのが苦手なのでホラーは避けたい方ですが、暑さしのぎにたまたま入った寄席で番長皿屋敷の怪談を聞くことになりました。「一枚、二枚、」とカウントが進むにつれて怖さが増

          ホラーの楽しみ方

          高架下のだんらん

          キャンドルナイトという街おこしのイベントがありました。同僚の先生や学生が協力しているというので行ってみると,鉄道の高架下に人が集まりキャンドルが光っているのが見えます。普段は何もない広場に,数台のキッチンカーが並んでいて,軽い食事や飲み物を注文することができます。 仕事を終えて高架下に着いたのは夜の8時を過ぎていて,しかも一人だったので,そこが居酒屋やレストランだったら,きっと入りにくかったと思います。しかし,道路と会場の間に境目がないので,通行人の一人のような感じで立って

          高架下のだんらん

          パレイドリア

           南半球の国を訪れた時に,南十字星を探してみました。日本とは季節が逆の初夏の空には星が明るく見えて,まるで星空に自分が包まれているようでした。ただあまりの星の数の多さに,どれが本当の南十字星かがわかりません。全天にある星座の中で南十字星は一番小さくて,見つけるのが難しいそうです。  知りたいことがあると機械に頼るいつもの癖で,ポケットの中のスマートフォンに手を伸ばしました。でもなんだか,南十字星がすぐにわからなくてもいいような気がして,取り出しかけた手を止めました。  モ

          パレイドリア

          風信子

          「風信子」と書いて、ヒヤシンスと読むそうです。読み方の由来はわかりませんが、長い冬を越えて春風が吹くのを信じるような、明るい兆しが文字から伝わります。 風という字は、例えば時風や風潮のように、目に見えない大きな流れを現す時に多く使われます。古代ギリシャでは、風は、命の息吹や魂の象徴と考えられていました。そして、風のシンボルとして、蝶の羽が用いられてきました。心理学(サイコロジー)の語源は、ギリシャ神話の女神プシュケの名前に関連していて、女神の背中には蝶の羽がついています。あ

          農園さんを応援しよう

          袋詰めになった色とりどりの野菜が、レストランの扉の前に置かれています。休日の昼に時々訪れていたレストランがコロナ禍の影響で時短営業となり、いつものメニューの看板の代わりに貼られているのは、「農園さんを応援しよう」という手書きのポスターです。飲食店の休業が相次ぐ中で、野菜の発注を受ける農家への影響も深刻です。生産者への応援と食品ロス削減への一役とともに、無農薬の野菜を買って帰れば、食卓の会話にも彩が増すだろうと袋をひとつ選びました。中には京都の静原の農園で作られたというカボチャ

          農園さんを応援しよう

          ウィンクルムの庭

          ラテン語できずなを意味する「ウィンクルム」が、キャンパスの中央にある庭園の名前です。ウィンクルムの庭には、校舎の3階とほぼ同じ高さのドイツトウヒの木が植えられていて、今の季節には、地面から木のてっぺんまで連なる約7千個の電飾が点灯しています。そのトウヒの根本から上の方へと光に沿って視線を移すと、冬の夜空に明るく金星が輝いているのが見えます。5時間目が終わる頃には日が暮れて、庭園の照明は足元を照らすライトとツリーのあかりだけです。授業を終えて急いで帰る庭園で、足を止めてツリーを

          ウィンクルムの庭

          出番です。

           生きがいをテーマにしたテレビ番組で、生き生きとした同世代の人が登場してその生き方が紹介されることがあります。こうした映像を見て、「私もできるかも」と意欲を高める人が多ければ、番組は成功といえます。一方で、「この人たちは特別だから」と切り分けてしまう人がいるのも事実です。テレビ画面に映る人は、一般とは異なる印象になりがちなので、かけ離れて感じることもあるのでしょう。番組を見ている視聴者は、生きがいづくりに関心を持って、役立つ情報を得ようとしているところは同じです。ただ、「私も

          出番です。