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キッチンカーを見かけたら

大学にキッチンカーがやってくる。春学期が始まったばかりの校舎の入り口に、キッチンカーの登場を知らせるポスターが貼ってあります。学生たちの注目を集めているメニューは、ヤンニョムチキンやローストビーフオーバーライス。決して、鳥の唐揚げとか牛丼とかの定番の料理名ではよべないようなおしゃれな雰囲気があります。キッチンカーは調理設備のある移動式の販売車で、最近では都市部を中心に人気が高まっています。行く先々の土地柄や気候に合わせて異なるメニューを提供できるのが特長で、オーガニック食材を使用するなど、こだわりにあふれた所が魅力のひとつです。

さて、大学ではキッチンカーの前に行列ができています。短い昼休みの時間なのに、料理を手にするまでに少なくとも30分はかかりそうです。待たずに食事ができる店が校内にあるのに、並んでまで珍しい料理を求めるのはなぜでしょう。3日続けて通ったという学生に聞くと、並ぶこと自体が楽しいと言います。行列の先にある食べ物を想像しながら友だちと談笑していると、まるで大勢でイベントに参加しているようなトキメキがあるのだそうです。そういえば、並んでいる人たちの仕草には一体感が感じられ、表情も高揚しています。欲しい食べ物を苦労して手に入れた感動を同じ列にいた仲間と分かち合うと、より美味しくなることでしょう。

キッチンカーに並ぶ人は、新しい物事への好奇心が強く、目的に向かう行動力があるといえ、その結果、他の人との関わりの中で楽しさが生まれていました。好奇心を持ち続けること、目的を意識して行動すること、良好なコミュニケーション、この3つは幸福を感じるうえでの重要な条件で、健康長寿の秘訣とされます。いつもと同じメニューを同じ場所で食べるのも安心です。しかし少し冒険して新しい食べ物に挑戦するのは、自分の心身の健康のためだけではなく、周囲の人たちとの楽しさへの貢献にもつながります。大型連休にキッチンカーを見かけたら、それは幸せの予兆かもしれません。

(2023年4月28日 京都新聞山城版朝刊 随想やましろ 寄稿記事)

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