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発酵する未来

想像からはじまる未来の体験を一緒につくろうと、大学生が小学校の授業に出かけました。地球環境の保護など、持続可能な開発目標(SDGs)をテーマにした総合学習の時間です。自分達で考えた理想の未来を、人型ロボットのペッパーにプログラムして、ペッパーの言葉や動きで他の小学校の児童に伝えます。この難しい課題に、プロジェクト型の科目の一環で、大学生が企業や自治体と協力して取り組むことになりました。

理想の未来には決まった答えがないので、何が起こるかわかりません。授業計画を立てても、それがうまくいくかどうかは状況次第です。

さてどうなるか。チームに分かれて授業がはじまりました。限られた時間の中で、誰もが一生懸命に手を動かしています。しばらくすると「チーム全員のアイデアを消さずに使おうよ」と、子どもたちがアイデアを次々とロボットのプログラムに入れていきます。バラバラのアイデアに音や動きをつけてまぜこぜにして、ひとつのプログラムに仕上げようというのです。理想の未来のキャッチコピーは、「ゴミで仲良くなろう」。ゴミ問題をみんなで考えたら仲良くなれる、と気づいたチームが出した答えでした。

最近では、いくつかの曲のサビの部分を組み合わせて新しい作品にするリミックス版の音楽が流行しています。リミックスは日本語でいうところの発酵です。糠漬けのように、いろいろな食材を混ぜ合わせて美味しくする発酵食と、リミックスは原理が似ています。素材はシンプルなものでも、混ぜて加工すると全く違う風合いになるのがリミックスのおもしろいところです。こうしてみると、ロボットはたくさんのアイデアをミックスして短時間で発酵させる糠床のようです。特に人間のような表現ができる人型のロボットは、新しく出来たものを作品として味わうのにはぴったりの装置にもなります。

小学校の授業で、ロボットという装置を通して子どもたちの理想の未来を発酵させたらどうなったでしょうか。その味わいは言葉だけでは言いつくせないのが、発酵食のおいしさでもあります。

(京都新聞山城版 随想やましろ 2022年11月11日朝刊掲載)

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