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水晶の弾丸

「母の形見 水晶の弾丸 輝く腕に」

右の一文は、生成AI(人工知能)がシニアの思い出話を元に作ったものです。生成AIというのは、コンピュータープログラムが学習したデータを使って、自分で問題に答えたりできる技術です。最近の急速な発展で、私たちの日常生活でもAIはますます身近になっています。

対面での多世代交流も少しずつ行えるようになっています。そこで、「AIと思い出話をして俳句を作ろう!」というイベントを大学で開催することになりました。参加者はシニアと大学生の約30人で、学生は心理学や情報学を学ぶ文理融合チームです。イベントではまず、シニアの撮った「一番大切にしているモノ」の写真をAIが読み取ります。そして写真の情報からAIが出した質問にシニアが答える会話を何度か繰り返します。最後に、「感動する俳句を作って」とAIに頼むと、即座にAIが会話の内容から俳句を作って応えてくれるのです。作品の出来栄えはというと、名人級には程遠いものだったりします。「私たちの方がうまく作れるわ」と、鑑賞した参加者たちの笑いが起きることもしばしばで、人間の優越感をほどよく刺激してくれる愛嬌が今のAIにはあります。

参加者の一人の京子さん(仮名)は、お母さんの形見の品を大切なモノとして写真に収められました。写真を見ると、京子さんがいつも身につけている金色のレトロな腕時計と、丸くて透き通った水晶の数珠が写っています。その水晶の珠をAIは弾丸と言っています。音から漢字に直す時の間違いか、もしかすると写真の中でキラキラと光る水晶の珠が、AIには弾丸に見えたのでしょうか。どちらにしても、その時のAIは数珠よりも弾丸に関する情報をはるかに多く持っていたことが推測できます。

数珠を通じた京子さんとお母さんとの温かな絆とはうらはらに、人々を分断する武器や冷たい争いが絶えない世界の混沌を垣間見るようで、私にとっては心に響いた一句です。「感動する俳句を」という課題に対し、AIはある意味で正しい答えを出したといえるのかもしれません。

(2023年7月14日 京都新聞 山城版 随想やましろ 寄稿文)

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