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心地よい『墨のゆらめき』

三浦しをんさん。以前ベストセラーになった『舟を編む』で私は初めて知った作家さんです。それが、ええと…2012年本屋大賞!?たぶんそこそこリアルタイムで読んだ気がするので…実に11年前ですか…!!ひえぇ…!!

ああ、この本いいなぁ、好きだなぁって思えた本は、10年以上の月日が流れてもその時に読んだ新鮮な感動を、まるで昨日のことのように思い出せるのが不思議です。とはいえ記憶力はイマイチなので、細かいエピソード、何なら大筋さえ忘れていても、なぜか読んだ時の気持ちの動きは体が覚えているような感覚。

確かその後に『まほろ駅前多田便利軒』も読んで面白かった気はするのだけど、そちらよりも『舟を〜』が私は好きでした。『舟を〜』も『まほろ〜』も本の後に映画も観たので、思い出そうとするとそちらの俳優さんたちで想起されますが、そう言えばどちらも松田龍平さんがメインどころだったなあ。

さて、久々に拝読した三浦しをんさん作品は、こちら。

『墨のゆらめき』- 著者: 三浦しをんさん


読み終わるのが寂しい

と、久々に思う本だったなあ。物語の空気感や設定、細やかな描写の一つ一つが、『舟を編む』のそれと通ずるものがあると感じました。この登場人物たちのこれからを、ただの日常でいいから、ずっと読んでいたい、一緒にその後の時間を重ねていきたい。そんな願望すら生じました。

案外、静かな公共の場ではオススメできず

主人公は、『舟を編む』の馬締(まじめ)さんをちょっと彷彿とさせる、ものすごく真面目な方。でも、お仕事とか醸し出す雰囲気とかは、馬締さんとはだいぶ違うし、人並みに世の中にこなれた感じはある。趣味もいわゆる真面目なやつでは、ない。

なんだけど、やっぱりすごく真っ直ぐで真面目。本人は大真面目に真顔で生み出す行動や思考が、側から見たらどこかズレてて笑えるのに、その面白さに本人は気付いていないタイプ。もう1人のメイン登場人物のキャラや合いの手も、間合いが最高。そう、本なのにやり取りの間合いまで伝わってくるんです。

たぶんもし自分もその場にいたら、場面としては大きな動きもなく淡々と進んでいるはずのところでも、な〜んかジワジワとおかしくてついクスッとしてしまう。

しかし1人で静かな公共の場では、その「クスッ」もこんな地味な連続技で来られると危険なわけです。他愛無い展開なのに、笑いがスルメのようにジワジワくる。なので電車やバスや飛行機で読むのは
超キケン!超キケン!(←ドラマ『VIVANT』ドラムさんのスマホ音声で脳内再生しましょう)

もしこの作品も映画化されるなら、やはり主役は松田龍平さんに非常に親和性が高い気がします。まぁ、松田さんの高い演技力があれば、別に三浦さん作品に限らずたぶん何でもできるし合っちゃうんでしょうけど笑。

作家さんの頭の中は?

三浦さんはお名前から男女どちらか推測しづらく、結局性別は知らないまま作品を読んでいたのだけれど、私が読んだものではどの作品も男性が主人公だし、男同士の友情の感じもリアルな気がするしで、てっきり男性作家さんだと思っていました。今回読み終わってから調べてみて初めて知り、軽く驚き。

女性作家さんが描く女性の登場人物の心理や行動が、女性読者において共感できる内容であることはある意味自然なことだし、実際違和感を感じることは少ない印象があります。

いち女性の私からすると、失礼ながら、いやどうして女性の描き方そんな風にしちゃうのかな?全然分かってないな?っていう男性作家さんの作品も、そこそこあるなとは思います。

でも、大抵の作品は作家さんの性別に関係なく男女共に登場人物がいるわけで、しかもそれぞれ年齢も背景もまさに多種多様。どうしてこんなに女性や男性の心理やアレコレがわかるの??もしやあなたの中には異性がいるの??と思えそうな作家さんたちの方が男女共に多い気がします。

で、三浦さんの場合、そこで描かれる男の友情や、その気持ちの変遷やなんかは、男性からすると「わかるー!めっちゃわかるー!えっ、何でこんなことまで分かっちゃうの?」レベルから、「いやいや、違うんだよなぁ」レベルまでの、一体どの辺に位置付けられるんだろう、とふと思ったわけです。

あ、もちろん、作家や読者それぞれの性自認の違いとか、作家個人の力量や作者読者の偏見なんかによって左右される部分もあることは想定されるとして。なので、あくまで「一般論的に」という意味なんですけども。

私がもし男性で男同士の友情を育むんだったら、三浦さん作品に出てくるような関係性が良いなあ、と、どの作品でも思いました。

二度読みの予感

よほど重要でそこが分からないと内容が進まないというレベルでなければ、私は意味のわからないところは基本的に読み流してとりあえず通読するタイプです。

調べながら二度読みすればさぞかし語彙力も増えていたんでしょうが、なかなかそのエネルギーが保てず、こうして文章を書いていながら、いくつになっても文章力が変わらんなぁと呆れる感じです…(苦笑と開き直り)。

でもまたあの登場人物たちに会いたいし、私には普段使い慣れない難しめの単語や言い回しも散見されたので、今回はそこを調べながらもう一度のんびり読んでみようかな!

ふふ、また近々会おうぞ、続さん、遠田さん。

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