【ファジサポ日誌】8.相手コートで戦えたのか?~第13節vs東京ヴェルディ~
はじめに
もう明日(5/4)には次の試合を控えており、慌ただしいGWとなっています。4/22away熊本戦から始まった5連戦はここまで2勝1分。3~4月の産みの苦しみを経て、チームは上昇気流に乗りつつあります。
現在の勝点は21(※山形戦を含む)、今年の目標勝点66を物差しにしますと、明日の14節水戸戦で22には達しておきたい、つまり最低でもドローには持ち込みたいところです。
今回レビューする東京ヴェルディ戦では怪我人も出てしまいましたが、サポの熱も込めた総力戦で明日は戦えればいいなと思っています。
目次
1.東京ヴェルディ戦レビュー
2.試合のポイント
3.相手コートで戦えたのか?
4.おわりに
1.東京ヴェルディ戦レビュー
(1)メンバー・試合結果等
① 岡山メンバーとねらい
岡山は前節秋田戦から中3日、先発メンバーを3人入れ替えた。右SB16河野諒祐は9節以来の先発出場、ボランチの一角27河井陽介は2試合ぶりの出場となった。フォーメーションは4-2-3-1であったが、MF8ステファン・ムーク、FW14田中雄大、FW19木村太哉、FW15ミッチェル・デュークの前線4枚は攻守において流動的に立ち位置を変えていた。アンカーではなく、ダブルボランチの配置はすっかり定着し10節以降4試合連続となった。
そしてこの日のゲームキャプテンはCB5柳育崇に代わりCB23ヨルディ・バイスが務めた。何らかの意図があったと思われる。
木山監督は戦前各媒体で秋田戦は相手に合わせた特殊な戦い、この試合は改めて「相手コートでの戦い」を目指す趣旨のコメントを残していた。
② 東京Vメンバーとねらい
4/22に堀孝史監督に新型コロナウィルス陽性反応が出ており、翌23日の千葉戦から長島裕明HCが代理で指揮を執っている。東京VのHPによると堀監督は体調を崩しておらず静養中とのことである。早期復帰を願いたい。
今年の東京Vは、3月まで4勝3分負けなしと好調であったが、4月は1勝1分3敗とペースダウンしている。この間も伝統的なパスサッカー、攻撃的なサッカーは健在で総得点21はリーグ最多である。一方で4月に入ってから9失点と守備には課題があるようだ。
アンカーを配置した4-1-2-3はこれまでと変わらず、そのアンカーは2試合ぶりの先発出場となったU-21日本代表MF6山本理仁が務める。
長島HCはDAZNの試合前インタビューで、守備面の課題については具体的に言及せず、岡山については高さと強さの印象について述べていたが、目指すサッカーはヴェルディらしさの発揮と語った。
以下に先発メンバーの配置を示す。
③ 試合内容概略
岡山が後半に上げた2得点を守り切り、今季初の連勝をマークした。
全体では前半は岡山が支配、決定機を迎えるも決め切れなかった。
後半は東京Vに流れが傾きかける中、相手コートへ侵入した際の丁寧な繋ぎ、そしてロングカウンターを契機とした連続得点で岡山が先行した。
その後は効果的な選手交代から東京Vが攻勢に出て1点を返し、なお岡山ゴールに迫るがあと一歩及ばなかった。
球際で激しい攻防が続き、岡山は27河井、DF41徳元悠平、東京VはDF26山越康平、6山本が相次いで負傷退場した。ATは実に9分を数えた。
(2)レビュー
① 岡山が「相手コート」で試合をした前半
試合全体の支配率は岡山44%、東京V56%であったのに対して、前半は岡山51%、東京V49%(DAZNより)とエリアに関わらず岡山がボールを支配する展開となった。「ヴェルディらしさ」のひとつが攻守におけるボールの支配であるのなら、少し意外な結果となった前半であった。
岡山がねらいとしていた「相手コート」への侵入回数までは数えていないが、この前半に関しては試合開始直後から大体2~3分おきに相手コートに入れており、また相手コートでの攻防時間も1回の侵入において大体1分~1分半とこれまでの岡山と比べると感覚的にも長く、これは「相手コート」でサッカーをしていたと言っても良いのではないかと感じた。この前半に得点が生まれていれば百点満点のデキと言えたが、内容的には今シーズン一番であったと思う。
前半、岡山のデキが良かった要因に、前線から強度の高いプレスを実行できたこと、東京Vのビルドアップを寸断したこと、そして23バイスのサイドチェンジが有効であったこと、更に東京V側の要因について挙げたい。詳細は次項で述べる。
② 別の試合となった後半
劣勢となった東京Vは後半開始から左右のWGを入れ替える。右に10新井瑞希、左に19小池純輝が入った。これは他の方も指摘していたが、10新井が岡山右SB16河野にほとんど仕事をさせて貰えなかったため、これを打開する策であると私も感じた。
前半とは打って代わって岡山前線からのプレスの強度は弱まり、その回数は減少、これに伴い東京Vは徐々に「らしさ」を取り戻すのだが、岡山はそこに伝統的な「岡山らしさ」ともいえる(※仲間隼斗のイメージ)ロングカウンターを発動する。後半5分、19木村の自陣左サイドからのドリブルは決定機には至らなかったものの、最終ライン押し上げのきっかけを作り、その後の攻防を経ながら後半9分14田中の得点へと至った。この得点のシーンも19木村の粘りからであったが、やはり5分のカウンター発動により岡山が主体的に攻守において主導権を握れたことが大きかったと思う。
DAZNの実況では、14田中の先制点直後に追加点を奪えない課題についての14田中自身のコメントを紹介していたが、4分後の15デュークの追加点は19木村の左サイドを意識させられていた東京Vの虚を突く右サイドからの攻撃であり、右に振った27河井、そして最高のクロスを上げた16河野、ニアできっちり合わせた15デューク、その裏に走り込んでいた8ムークと流れるような連携によるものであった。先制点後に一呼吸置くのではなく、早い段階で追加点を奪いにいく姿勢をチームで共有していたからこそ生まれたゴールともいえ、この場面にはひとつのチームとしての成熟を強く感じとれた。
また、16河野のクロスから15デュークとヘディングは昨年のaway甲府戦を思い出させるものであり、今後この2人がホットラインになる事も期待させた。
東京V側からすると、最初の失点後に選手交代の準備を行っていたにも関わらず、結果的に2失点目を喫した後の選手交代となってしまった点は痛恨であった。この後、得点を奪ったFW18バスケスバイロン、そして好調FW9杉本竜士の投入が1点差の段階であったのなら、この試合はどちらに転んでいてもおかしくなかったと思う。
③ 選手交代による流れの変化
後半16分、東京Vは左SB2深澤大輝に代えて、この試合のジョーカーともいえる9杉本を投入。9杉本は今シーズン11試合で4得点、最近は不発であるが決定率は36.3%を誇る。これに伴い東京Vは4バックから3バックに変更。更に後半から入れ替えた左右のWGを元に戻し、改めて左に10新井、右に19小池から代わった18バスケスバイロンを置いた。9杉本は前線の左サイド寄りに位置する。10新井と9杉本の2人で、岡山の右サイドを攻略するねらいがみてとれた。
これに対して岡山は4分後に左WG19木村に代えてDF3阿部海大を投入した。9杉本の投入直後に(当然かもしれないが)岡山側ベンチでこの交代を分析している様子がバックスタンドからはよく見えており、恐らく何らかの手当てを施してくるものと感じた。私は19木村か14田中に代えてDF24成瀬竣平の投入を予想したが、結果は3阿部の投入であった。非常に興味深い交代であり、この交代の意図についても次項で考えてみたい。
結果的にこの東京Vの交代策は当たり、後半34分に9杉本の左サイド奥からマイナスのクロスを18バスケスバイロンが頭で当て、東京Vが1点を返す。
この場面も振り返ると、活性化された東京V左サイドのケアも行っていた岡山27河井の後半25分過ぎの負傷交代が尾を引いていたように感じる。
この負傷交代は、41徳元から24成瀬の交代の取りやめの原因にもなっていて、24成瀬がそのまま左SBか、または右SB16河野を左に回して右SBに入る等の交代が行えていれば、フレッシュな選手が入るという意味でこの失点シーンは生まれていなかったのかもしれないと思えてしまうのである。
この日奮闘していた41徳元が試合最終盤で負傷したことからも、この日の岡山において数少ない負の連鎖であった。
負傷した27河井に代わりMF6喜山康平が入った後半27分には15デュークに代えてFW7チアゴ・アウベスがそのままCFに入った。タイプとしてはFW20川本梨誉との交代も有り得たが、20川本は秋田戦にも出場、連戦中であることを考慮しての7チアゴ起用と思われた。
前稿でも述べたが、この7チアゴの起用法が悩ましい。足元で受けて相手2~3人を引きつける力はあるが、全体が引き気味になっているのでボールの出し所がないのである。相手側からしてもボールの取りどころとして分かりやすいので全力で取りにくる。ならばファールを取ろうと倒れるのであるが、最近はどのレフェリーも取ってくれなくなっている。守備もしているが、デューク程の強度もない。しかしながら後半51分のようにカウンターが嵌りさえすれば左足からの強烈なシュートが待っている。
話は逸れてしまうが、来月には再び15デュークがオーストラリア代表で離脱する(のであろう)。7チアゴを使わない手はないのだが…。7チアゴを活かすサッカーを別に作らなくてはならないのか。変わらず悩ましい。
ほぼ押し込まれ続けたATであったが、押し込まれながらも各選手、ポジションをしっかり取っていた点は好感を持てた。後半の特に最終盤は望んでいた展開ではなかったが、しっかり1点差を守り切った点はこのチームの成功体験になる筈である。この試合の収穫のひとつであるといえる。
2.試合のポイント
(1)「相手コート」で試合が出来た要因
① 前半勝負?のハイプレス
この試合の岡山の前線のプレスは序盤から本気でボールを奪いに行くものであった。一見闇雲に行っているようにも見えるのであるが、②で述べるヴェルディのビルドアップを遮断することにより、東京Vの最終ラインに戻されるボールに対して、または戻されたボールに対しては特に強く行く姿勢がみてとれた。
前からのプレスはどのチームでもよく言われるが、約束事として取り敢えず行くのではなく、本気でボールを奪われるのではないかという恐怖感を相手に植え付け、実際に奪ってしまうことが「相手コート」でゲームをする大前提として必要なのである。
こうなると、各選手の体力の消耗が心配されるが、後半途中から徐々にではなく、最初からプレスの強度を弱めたのは意図したものであったと考える。つまり、この試合の岡山は最初から前後半でプレスのかけ方を変える戦い方を選択していたのではないかと推察する。メリハリのついたプレスが「相手コート」での戦いを可能にしたともいえる。
② アンカー6山本へのパスコース遮断
東京Vのビルドアップのほとんどが両CB15馬場晴也、23谷口栄斗から始まるが、この両CBがボールを持った時点で、まずアンカー6山本理仁へのパスコースを15デューク、8ムークの2人で消して両CBパスコースをサイドに限定していた。
岡山もMF26本山遥をアンカーに配置していた際に、相手チームによくやられていた守備である。いわばアンカーを消す守備のイロハともいえる。
最終ラインにプレッシャーをかけて、岡山の工夫は寧ろその先にあり、そのまま簡単に両CBにサイドへパスを出させてサイドで勝負させるのではなく、サイドでパスを出す態勢に入った段階、持ち出し始めたタイミングで15デューク、8ムークの何れかがボールホルダーに対してプレスをかけ、これにより両CBからサイドへのフィードに狂いを生じさせていた点である。
この時も6山本には必ず残った1人はマークにつき、6山本がボールを貰いに両CB脇に下りてきた際は27河井らがプレッシャーまたは、パスコースの遮断に入っていた。たまらず東京V4梶川などがパスを受けようと下りてくるが、ここもラインを上げている岡山の選手がプレッシャーを掛けていた。
こうしたシーンは10節新潟戦でもあり、再現性の高い戦いが出来た証ともいえよう(図1参照)。
岡山にとって幸運であったのは、6山本が自分へのパスが入らなくても自身のポジションをキープしていた点である。これは、やはり東京Vにおけるアンカーの役割が前線へのパス出しに重きを置かれており、前線との一定の距離をキープしておく必要があったためであると推察する。
また、東京V右SB16山越はSBが出来ない訳ではないが、主戦場はCBである。本職のSBとは攻撃面で分が悪く、この点でも岡山は左サイドで優位に立てていた。①②で述べた最終ラインに前線からプレッシャー、サイドへ誘導というやり方は有馬ファジでのやり方でもある。
③ 23バイスのロングフィード
自陣コートにボールがあった際に、相手コートでの戦いに切り換える手段として23バイスの正確なフィードは非常に有効であった。この試合の23バイスのパス成功率は実に89.3%。開幕当初と比べてもパスの精度は上がっており、安心して観ていられるようになった。この日は彼がゲームキャプテンを務めたが、攻撃の起点、スイッチという意味でもキャプテンに相応しい活躍であった。
④ 東京V監督の不在の影響
岡山の「相手コート」での戦いに対して東京Vは「ヴェルディらしさ」を出そうとすることで対抗しようとしていたが、岡山の恐らく想定以上の徹底した戦法に対して、若干後手を踏んだ印象である。この点については、やはり監督不在の影響は大きいものと考える。長島HCも監督経験者ではあるが、状況に応じた柔軟な戦法の変更は監督の専権事項であると考える。「ヴェルディらしさ」という基本原則に基づいた戦い方しか出来なかった点は東京Vにとっては不運であり、岡山としては幸運であった。
(2)東京V9杉本投入への対応
私が観戦しているバックスタンドからはベンチの様子も良く見えるが、東京Vが後半16分に9杉本竜士を投入し、3バックに変更した後の数分間は岡山ベンチでも当然ながら分析を行っている様子が垣間見えた。
私の記憶では、どちらかといえば9杉本は左サイドを主戦場としている。東京Vのイメージは、好調16河野がいる岡山側右サイドを10新井と9杉本の連携で崩し、岡山5柳、23バイスを越えるクロスを上げさせ、ファーで18バスケスバイロンに決めさせるイメージではないかと想像した(図2参照)。
私は24成瀬を右サイドに加えて、杉本のクロス、つまり上げる側にマンマークのような形で対応させるのかと予想したが、投入されたのは3阿部であった。つまりクロスが落ちてくるところを自陣ゴール前、特にファーを41徳元と固める意図があったものと思える。
木山監督はそのコメントからも東京Vの攻撃力を警戒しており、最終ラインの枚数を増やさないとやられるとの確信があったものと思われる。交代の対象が19木村であったのはプレーに疲れが見え始めたからであろう。
結果的に警戒していた形で18バスケスバイロンに決められてしまったが、私は選手交代としては妥当であったと思う。特殊な戦いであった秋田戦にヒントを得た交代であったとも思うが、この交代が単なる守備固めではないことを強調したい。
3.相手コートで戦えたのか?
結論から述べると、かなりのハイレベルで戦えたといえる。ただし90分間相手コートで戦い続けることは無理であることも同時に証明された。「相手コート」でサッカーをする時間帯に得点を奪い、あとは相手の出方を探りながらカウンターを狙う戦法を磨きたい。そういう意味では、この試合相手を支配していた前半ではなく、後半に得点を奪えた点はポジティブな材料である。
4.おわりに
それにしても、ダブルボランチ採用以降の木山ファジの成長速度には驚きを覚えます。ダブルボランチの導入により守備が安定し、攻撃に力を入れられるようになったことが大きな要因ですが、琉球戦はクロージング、新潟戦は相手コートへの侵入、熊本戦は運動量、秋田戦は肉弾戦、そしてこの東京V戦とそれぞれの戦いで得た課題と成果をスポンジのように吸収して次の試合へ繋げているのが今のファジアーノです。このスポンジは、今、有馬ファジをも吸収しようとしています。
明日の水戸戦はまた異なるメンバーで戦うことになりそうです。水戸は近年苦手としているチームですし、今シーズンは大胆なターンオーバーを実施しています。明日も難しい戦いになりそうですが、今の木山ファジであれば、あっさりそんな課題もクリアしてしまいそうな気もするのです。
明日も勝ちましょう!
※敬称略
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