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銀河鉄道を追いかけて

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#一次創作小説

銀河鉄道を追いかけて #7

7th stop 手のひらに銀河の欠片
 正人は、くらくらする頭に手を当てて、目を開きました。コオロギの鳴き声が、耳元や遠くで聞こえています。起き上がってみると、正人は、公園の滑り台のすぐ下に横たわっていました。
「真吾!」
 正人はあたりを見回して、すぐに真吾を見つけました。真吾は正人のすぐ近くで、リュックサックを抱えたまま、倒れているのか、寝てしまっているのか、わからないような格好でいました。

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銀河鉄道を追いかけて #6

6th stop 居るべき場所へ よだかが二人を降ろしてくれたのは、南十時駅の傍でした。北からそう遠くない場所に、白い渚と大きな十字架が見えました。
「あちらのほうへ行ってはいけませんよ。あすこへは、きみらはまだ、行く時ではないんですから」
 よだかは厳しい表情で、少しだけ心配そうに言いました。
「次の汽車が来たら、すぐにお乗りなさい。それから、あまりこの銀河にも長居しない方がいい。きみたちは、ほ

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銀河鉄道を追いかけて ♯5

5th stop さまよう銀色の少女 真吾がしばらく歩いているうちに、草原の向こうに、白くて大きな砦が見えてきました。

「真吾くん。あれが、少女の砦ですよ」

 よだかがくちばしでそれを指しながら言いました。真吾も、それを真っ直ぐに見据えます。砦は、青く暗い空を背中に、月の光のようにぼんやりとしてうつくしい光と、そのなかにところどころ細かく砕いた水晶を散りばめたような透き通った光を放っているので

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銀河鉄道を追いかけて #4

4th stop 丘向こうで会った鳥

 駅に戻る道すがら、真吾は正人の様子がおかしいのに気がついていました。けれども、正人が自分で言おうとしていないことを、どうやって聞いたものか迷っていたのでした。

「なあ、真吾」

「ん?」

 真吾は正人の次の言葉を待ちました。正人はしばらく口ごもり、言葉を探して、しまいにふっと息を吐いて、話すのをやめてしまいました。

「マサ?」

「いや、何でもない」

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銀河鉄道を追いかけて #3

3rd stop 白鳥駅とプリオシンの遺跡

 白鳥駅は、しんとしたさびしい停車場で、売店も、自動販売機もありませんでした。改札口へ行ってみると、電灯がいくつかついているだけで、駅員の姿もありませんでした。さっき別の車両から幾人かが降りていくのをたしかに見た気がしたのに、どこへ行ってしまったのか、わかりませんでした。そのまま、正人と真吾は、改札を出てすぐのところから続く、透き通って白いいちょうの並

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銀河鉄道を追いかけて #1

1st stop よいやみ色の切符

「ヘラは嫉妬深い女神だったので、ヘラクレスにお乳を飲ませることを拒否しました。というのが正しい訳です。ヘラクレスは、英語ではハーキュリーズと言うのは、昨日やったはずなんですけどね?」

 教科書を片手に、先生がじろりと一人の生徒を見下ろしていました。教室の後ろの方の席からその様子を眺めながら、正人は、より一層、英語の授業に嫌気がさしてしまいました。生徒たちが教

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銀河鉄道を追いかけて #2

2nd stop ラムネ売りの少女と北十字

 正人は呆然として背もたれに背中をあずけていました。真吾もリュックサックを両腕に抱えたまま、ぽかんとしています。そして真吾はとつぜん、叫びだしました。

「うおお、すっげえ! 乗れてるよ!」

「うわっ、急にでかい声出すなよ」

 正人は真吾に文句を言いながら、列車のなかを見回しました。濃い紺色のクッションの座席が並んでいて、すべての席が向かい合わせの

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