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それでも彼らはテクニカルエリアに戻ってくる。サッカー監督という切ない仕事について木山隆之さんに語っていただいた

いままで、たくさんのサッカー監督にインタビューさせていただいてきました。自分が番記者を務めている大分トリニータで指揮を執った田坂和昭監督(現・栃木SC監督)、現在の指揮官である片野坂知宏監督をはじめ『監督の異常な愛情』で描かせていただいた北野誠監督(現・ノジマステラ神奈川相模原監督)に高木琢也監督(現・大宮アルディージャ監督)、吉武博文監督(昨季まで東京ヴェルディ。他に「J論プレミアム」で、現在はギラヴァンツ北九州を率いる小林伸二監督も。

貼りついて取材しているのは大分だけれど、対戦チームの監督のことも、試合を重ねると徐々にその輪郭が見えてきます。特にJ2では戦術的要素が勝敗を分ける試合が多かったので、その監督のサッカー哲学や志向、思考の傾向などについて、深く読み取ろうとしてきました。自分は多分、「監督という人種」のことが好きなんだろうと思います。

取材してみたいと強く思っていた監督の一人が、木山隆之さんでした。わたしがJリーグの取材をさせていただくようになったのは2007年。木山さんがこれまでにいろんなチームを率いてきた中で、同じカテゴリーで対戦したのは、J2では2010年に水戸ホーリーホック、2012年にジェフユナイテッド千葉、2015年に愛媛FC、2017年と2018年にモンテディオ山形。2020年はJ1で、ベガルタ仙台。木山さんが指揮を執ったすべてのチームと対戦した経験があります。

千葉と演じた劇的な2012年J1昇格プレーオフ決勝や大分がJ3降格した2015年ホーム愛媛戦での完敗、大分が最終節にJ1自動昇格を決めた2018年アウェイ山形戦。たくさんの忘れ難い試合とそれにまつわるエピソードを抱えつつ、木山さんという監督に、いたく興味を抱いてきました。

その願望がかなって今回、「J論プレミアム」で木山さんのインタビューをさせていただきました。昨季かぎりで仙台の監督を退き、今季は初めてひと休みの時期を過ごしていらっしゃる木山さんは、リモート取材のパソコン画面の向こうで、でも記者会見で向きあうときと、それほど変わらない印象。木山さんのほうでも記者会見でよく質問するわたしをしっかり認識してくださっていて、記事も読んでくださったことがあるということだったので、話が早いというか(笑)。監督と番記者という異なる立場での対戦を長年繰り返してきた距離感でのスタートとなりました。本当にありがたいです。

1時間半から2時間弱だったかの、長時間インタビュー。率直に話していただいたと思います。3万字近くになった原稿は、2月23日から3回に分けて、3夜連続で掲載されました。

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まずは直近の対戦を振り返るところから。コロナ禍の中でも昨季の仙台は特に、本当に大変なことだらけで、逆境・オブ・逆境みたいだった。そんな仙台に容赦なく、9月の対戦では大分が3-0で圧勝したけど、3ヶ月後の対戦では0-2で敗戦。まさにJ2で対戦した頃から抱いていた「勝ちかたを知っている監督」というイメージどおりの戦法で、木山ベガルタに完封されてしまったのでした。

本当はその試合後の記者会見でもお話を聞きたかったのですが、コロナ禍の下でのオンライン記者会見では対戦チームの記者は質問しづらく。それでようやく今回、そのときの戦い方についてとか、仙台での苦しかった時期のことなどを、あらためてお聞きできたんですね。それが前編。

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中編は、過去に率いてきたクラブで展開したサッカーについて。木山さんが水戸の監督に就任してからの2シーズンは大分がJ1でタイトルを獲った年と、それが見事に崩壊してJ2に降格した年。わたし自身もサッカーの仕事をはじめたばかりでJ2の詳しい事情を全く知らず、「水戸が立派なクラブになってきたいまだからこそ明かせる話」とばかりに木山さんがぶっちゃけてくださった内容には、まさか当時水戸がそんな予算で戦っていたのかと衝撃を受けるばかりでした。そういう背景があったからこそ、あの吉原宏太さんの名言「水戸にとっては1億円」が生まれたんですね。吉原さんを水戸に呼んだときの裏話や、あの頃の水戸で頑張った選手たちと新進気鋭の若き指揮官との物語は、あまりに生々しくて、とにかくすごかった。

プレーオフ決勝で終始ペースを握っていながら最後にワンチャンスを決められて昇格を逃した千葉でのこと。3-4-2-1のベースが出来ていた愛媛に強度をもたらしてプレーオフ圏内にまで押し上げたこと。山形で自分のやりたい原点にもう一度立ち返ったときのこと。

いつも指揮したチームは強くなるのに最後のところであと一歩結果が出ずにいた木山さん。その振り返りは率直かつフラットで客観的で、自身のことも周囲のことも、過不足なく等身大で評価しているという印象でした。言い訳もしないけど卑屈にもならない。そんな強さを感じます。

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そして後編。昨季の仙台サポのバス囲み事件とか、2015年大分戦後の記者会見で最後に付け加えた一言についてとか、コッテコテの関西人のくせに普段は関西弁が出ないこととか。そんな具体的なエピソードに絡めつつ、木山さんの天然なところや怖いところを深堀りしていきました。このあたりのやりとりは木山さんのお人柄がダイレクトに感じられるのではないかなー。

実に理路整然としていて、こちらの投げかけに対するリアクションが、大ボリュームでものすごく遠回りそうに見えるのに実は多分それが最短距離だったりするあたりには舌を巻くばかりでした。隙もない。それでいて物腰はやわらかいのだから、やっぱりこれほど怖い人はいない。あらためてそう思いました。現実を率直に語れる強さって、いちばん迫力ありますよね。

そして、サッカー監督って本当に切ない仕事だなとも感じます。自分の力ではどうにもならない部分も引き受けて、それをなんとかするために工夫したり努力したりして、勝てば持ち上げられるけど負ければ瞬時に手のひらを返されて。現場の責任はすべて背負って。

しんどいことのほうが多い仕事なのに、それでもやっぱり監督たちはまたテクニカルエリアに戻ってくるのです。このインタビューの最後の言葉が自ずと孕んでしまう重みを、読者のみなさんに感じ取っていただきたかった。木山さんの監督道第2章がはじまるのを、楽しみにお待ちしています。

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