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小説・「塔とパイン」

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作:よわ🔎 概要:45歳、片田舎の洋菓子店のパティシエが、紆余曲折、海を渡ってドイツでバームクーヘンを焼き始めた。 ※毎週日曜日更新(予定) ※作品は全てフィクションです。著…
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#ドイツ

小説・「塔とパイン」 #20

小説・「塔とパイン」 #20

バベッタと初めて出会ったのは、そう、市役所だ。右も左もわからない中、渡欧してドイツに来た。来ただけではダメで、住民となるには役所に届け出をしなけりゃならない。

前情報では「英語が読めれば何とかなる。」はずだったけれど、期待外れだった。英語での案内などなく、文字はほぼドイツ語だ。特段ドイツ語ができるわけでもなかった僕。

「全く、わからない・・・」

どこにいって、なにをすればいいのか、なにがどこ

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小説・「塔とパイン」 #19

小説・「塔とパイン」 #19

帰宅すると夕餉の時間が始まる。とはいえ1人で住んでいるから、仕度は自分でやることになる。自炊はできないので、スーパーで買ってきた、パンやサラダを食べ、チーズをかじる。

ドイツだからビールを飲めばいいだろうけれど、あいにくお酒に弱いし、ビールの味も好きじゃないから、ほとんど飲まない。ワインなら味はまだマシと感じる。

部屋の照明が弱いので、IKEAで購入したデスクライトで手元を照らしながら、ぼーっ

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小説・「塔とパイン」 #12

小説・「塔とパイン」 #12

「Hallo〜!ヘイ!ナカータ!調子はどうだい?」「いつものアレか?」

旧市街の目抜き通りから1本奥に入った十字路に、僕の勤めている菓子店「Konditorei Weise」がある。その迎えには名物女将と孫娘のパン屋、そして、もう一つの迎えには「ケバブ屋」がある。

数年前にできた新しい店だ。旧市街の落ち着いた雰囲気には似つかわしくない「Kebap」の看板が店の軒先にデカデカと掲げられれている。

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