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表現の世界に溺れたかった

ピアノを弾いてるのは楽しかった 自分の好きなように心の内を演奏にのせて表現して弾けたから でも小学校高学年になってピアノの先生の教え方が変わってしまった 技術の向上を目的とした鍛えるような練習になった 時には叱咤されるようなこともあった 私の弾きたいピアノじゃなかった  今まで通りに私のピアノは弾けないなと思った

ダンスを習いたかった  頼んだが習わせて貰えなかった  子供ながらに考えて中学受験合格をもちかけて交渉することにした 母は約束した 約束してくれた  合格したがダンスをさせてくれることはなかった 都合が悪くなったんだろう  私がしつこく問い続けるとうるさいと怒鳴って私を黙らせた  親に大人にそんなことを言われたら子供の立場の私は何も出来ない 経済力もない  卑怯だと思った  非力な子供に期待させて突き落とした この人をもう今後一生信頼することは無いだろうと思った

大学はデザインできるところを選んだ 何かを創出できるなら私の何かを表現できるなら学部は何でも良かった  何かをデザインするのは初めてで課題はとても難しかった 同時にとても楽しかった  湧き出る創作欲を紙面に表現する なんて素敵だろうと思った  表現することに生きがいを感じていた でもそこに評価があった とんでもない発想力を感じさせる作品たちを前に私は大事な何かを失っていた 表現に触れている時の高揚感は次第に薄れた

いつからか比較を覚えてしまった  表現の世界に溺れたくて 大学でやっと掴んだ環境に楽しんでいたのに満たされなかった ずっと求めていた世界に踏み入れたはずなのに   悲しくなった  自分が何をしたかったのかわからなくなった  卒論はデザインから逃げた  自分はデザインの捉え方や読み取り方、その観点も分からないまま実践に走っていると思った  既に出来上がったデザインされたものを分析することにした  教授からの提案もあって歴史物の卒論になり結果的にデザインからは離れてしまった でもこれで良かったと思う

社会人になった後の自分はどうやって表現していくのだろう どこにぶつけていくのだろう  今は昔出来なかったダンスをやってみたいと思っている  やったことのない楽器でも良いかもしれない  ただふと  考える度に 表現の世界に触れようとして挫折した記憶が  頭をよぎって  まるでかつての私をねじ伏せた母のように  私の一歩を許さない

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