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夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

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2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
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#ショートショート

【創作】コンパクト

「お姉ちゃんだけ、ずるいよ」 コンパクトを覗きこむ私に、妹が文句を言う。 マスカラって、ムズい。 結子につられて買っちゃったけど、これ失敗。 「だってママがくれたんだもん。JCはメイクするのに必要なの」 中学生になって三ヶ月。 結子も真希も急に男子の目を気にし始めて、休み時間は鏡ばっか見てる。 私も小っちゃい鏡が欲しいと言ったら、ママがくれたコンパクト。 古臭くてごめんとママは言ってたけど、この昭和感、よき。 レトロでエモいって言われる私のお気に入り。 それにこのコ

SS 侍と鏡 #夏ピリカ応募用

次男の長左エ門は、姉から鏡を貰う。嫁入り道具は新しく買うので不要と言われた。男がこのような鏡を持っていても仕方が無いのだが大好きな姉からの贈り物だから粗末には出来ない。自室の道具入れにしまう事にする。「では長左エ門、家をよろしくね」病弱な姉は美しいがどこか影のある人で他家に嫁ぐのは無理のように感じる。「姉上も元気で」手を握りながら別れを告げる。嫁げばもう二度と会うことは無いと思うと泣きそうになる、軟弱な自分が愚かに感じる。この家は長男が居るので自分は何をするわけでもない、ただ

【かがみの私】

【かがみの私】カガガ丸|幸せみぃちゅけた 2022年6月22日22:43 エッセイですみません。 でもテーマ「かがみ」ということでどうしても書きたいがあふれてしまいました。 私の旧姓は「加賀」なんですが、下の名前が「み〇〇」なんです。それで大学生の時のあだ名が「かがみん」だったんです。ちょうどそんな名前のキャラクターが登場するアニメが流行った頃で友人がふざけて呼んでそれが広まった形です。 前置きが長くなっちゃいましたね。 みんなは「かがみん」って呼ぶんですけど、ちょ

鏡のその後の話。【夏ピリカ】

あるお城にそれはそれは立派な映し鏡がありました。女王の死後、シンデレラが城に住むことになっても、鏡はそのまま城で暮らしていました。 それから数十年後、今度はシンデレラではなく別の女性を世界で一番美しいと言ったため、鏡は国外追放されることに。 旅に出た鏡は、とある山間にある小さな村にたどり着きました。ここでは、鏡なんて高価なものは誰一人使っていません。すっかり薄汚れた鏡は馬車から放り投げられました。 村に住んでいる娘・エレーナが水を汲みに川へ向かうと、途中で布に覆われた荷

【ショートショート】パスタを巻く

 君は、パスタを巻きながら友達の恋愛話について熱心に語っている— 夜中までドライブに付き合っておいて脈がないなんてことはあり得ない、恋愛感情が全くないならいいとこ日付の変わる前には切り上げて帰るはずだよ、でも逆にトモダチとしてしか見ていないからこそ遅くまで付き合えるってこともあるよね、ふたりにはシアワセになってほしいけど今のままじゃリョータがあんまり可哀そうだよ、あっちなみにリョータって彼のあだ名ね、本名はユウスケっていうらしいよ、なんでそんなあだ名になったんだろうね、本名

ルームミラー(ショートショート)

田植えが終わって間もない田んぼ、夏樹の街を映し出す。路肩の雑草は好き勝手に伸びている。夏樹は片側一車線の県道を真っ直ぐ進む。助手席では妻が手鏡片手に化粧を直している。ルームミラー越しには双子の娘が談笑している姿が見える。何気ない光景だが、幸せが充填されていく。 夏樹の実家に行く時、娘たちは普段よりも楽しそうだ。大好きなお爺ちゃんが大好物のお寿司を用意してくれている事を知っているからだ。大好きが詰められた方向に向かっているのだから、自然と声色も表情も明るくなる。 二人が座っ

【夏ピリカ】Forget Me Not

「ねぇ、カガミって知ってる?」 チドリの突然の問いかけに、ヒバリは知らないと答える。 「ミラーのことを、昔はカガミって言っていたらしいよ。」 「ああ、古語か。でも俺は耳にしたこともない。チドリは物知りだな。」 「シュウのことに関係するかもしれないから少し調べたの。」 絶句したヒバリの顔をチドリは可笑しそうに眺める。 シュウはヒバリの友人で、チドリの恋人だった男だ。ある日突然姿を消してしまった。元々不思議なところのある男だったから、そのうちひょっこり戻ってくるのではないかと、ヒ

嘘つき鏡【#夏ピリカグランプリ】

蝉しぐれが焼けた肌にジリジリと突き刺さるような夏の日。 お盆を控えた私達はお墓参りのついでに、家主を失った田舎の祖母の家まで来ていた。 半年前、祖母が亡くなった。 祖母の葬儀の後、祖母が一人暮らしていた家を誰が処分するのかということを、親族間で揉めに揉め、半年間放置されていたのだが、とうとううちが引き取ることになり、現在に至る。 家主がいなくなった家は老朽化が早まると聞いていたが、かなりの荒れ果てようで、滴る汗を拭いながら、祖母の遺品や形見分けだけをおこなう。 特殊清

わたしのせかい #ショートショート(1195字)

学校はキライ。あの子が意地悪するから。 ママもキライ。いつも怒るから。 だから、私は鏡をのぞくの。 鏡は面白い。私のいる世界と同じ世界がうつっているはずなのに、全然別の世界にいるみたい。 鏡を上に向けてのぞくと、ほら。 天井を歩いているみたいでしょ? 今、天井にあるライトをまたいだよ! ドアも、窓も、キッキンも、さかさま! 階段は?そういえば行った事ない! 「……ひかり、あぶない!」 後ろからママの声が聞こえた。私はびっくりして──。 急に世界が真っ暗になった。

【ショートショート】スマートミラー【#夏ピリカ応募】

低い鼻、一重の瞼、メリハリのない身体。容姿へのコンプレックスから、自己肯定感が低かった由香を変えたのはスマートミラーだった。2万円で買った最初のスマートミラーは、アルミ製台座に直径20cmの丸型AIモニターが付いた卓上型。音声認識による鏡像加工機能が搭載されている。 「瞼を二重に」 「鼻を0.5cm高く」 「少しだけ色白に」 鏡像加工を微調整しながら、正面を向いたり、少し横を向いたり、頬を膨らませたり、表情を作った。 (かわいいじゃん 私) 鏡像とのにらめっこで満

ルージュの伝言 《夏ピリカグランプリ》

「ルージュの伝言って知ってる?」 さっきまで全然違う話で笑っていたウタが、唐突に言った。 「松任谷由実の?」 「それ。彼の家で実際やってきた」 ウタは、ふふと笑いながら冷めたコーヒーを啜ると 「これでお別れ、スッキリ!」 そう言って両手のひらを合わせて、幸せ!みたいな顔をした。 「え、何、ケンカ?ケーヤンと?」 「ケーヤン、ふふ」 「中学からずっとそう呼んでるから!それより、ルージュの伝言って?」 「バスルームに、まぁ洗面所の鏡だけど、口紅で伝言をね、さよならって書いて

ツケ払い、ニャー【短編創作】

「で、払ってくれる?あの女の借金1,000万円」 突然の取り立てに、父親は困惑していた。 昼過ぎの休憩時間。 さっきまで、スマホで好きなお笑いコンビのネタを観ながら笑っていたのに、今は怒りに体を震わせている。 「こんな小さな定食屋に、そんな額を払えるわけがないだろ!」 父親は抗うが、借金取りは首を横に振る。 「保証人の欄にサインと印鑑がある。これ、あなたのだよね?」 見せられた書類を奪い取った父親の顔は、みるみる青ざめていく。隣にいた母親は泣き崩れた。 「また」だ。

鏡さんに聞きたいこと /ショートショート

「鏡よ鏡、鏡さん。私の素敵なところを教えて?」 ママは、今日も夢見心地で鏡さんに話しかける。 いいなぁ。 僕も、おしゃべりしたいなぁ。 ✴︎ “内面をも映し出す鏡。  これがあれば、自己分析はもちろん、他者に見せたい自分のブランディングも思いのまま!” そんな謳い文句で、新商品『鏡さん』は発売された。 原理はこうだ。 まず専門機関を通し、鏡さんに自分の情報を覚えさせる。LINEの送受信歴から、SNSの投稿、ネットの閲覧、通話、写真、卒業文集、カードの明細、GPS情報ま

ミラーボーイ

私は鏡。 いつも色々な人や物を 映し出している。 どんなこともありのまま 見せることが出来るけれど、 私自身のことはよく分からない。  映し出されること。 それは、非日常。 ある日、可愛らしい女の子が 手鏡を持ってくるなり間に立ち 合わせ鏡を始めた。 そしたら、まあびっくり。 私ったらからっぽ。 女の子よりそのことに 気を取られている内に、 その子は姿を消していた。 それからは虚しいままの 日々が続いた。 それはそれは心細かったよ。 みんな私を見て喜んでくれたのだと 思っ