底まではっきり見える青く澄んだ水_006

身体の異変と"不思議ちゃん"

ーオレとアチキの西方漫遊記(16)

楽しい時間はそう長くは続かない。安居渓谷(高知県仁淀川町)にある水晶淵。その上流にある人っ子一人いない砂防ダムで「仁淀ブルー」を満喫していると、わが夫婦のはしゃぎ声を聞きつけたのか、一人旅らしき男性がやって来た。声をかけてくることもなく、黙々と泳ぎだす。異様に気まずい空気。さらに、冷たい渓谷の水に体力を奪われていることにも気付く。そろそろ、ここを離れる潮時ー。そう思って奥さんの方を向くと、飽きもせず、全身の力を抜いて水面を漂う"溺死体ごっこ"を楽しんでいた。

前回のお話:「水中探索と"溺死体"」/これまでのお話:「INDEX

撤収

春先から屋外プールで練習していた元水泳部員の経験則からすると、水温は14-15℃といったところか。鼻水が勝手に流れだし、ちょっと動きを止めるだけで、冷たさに身体が強張る。しばらくして、水中カメラを置こうと岩場に上ったとき、足の筋肉に張りを感じたのはそのせいだろう。

画像2

"仁淀ブルーの溺死体"こと、奥さんの表情にも異変があった。顔がいつにも増して白くなり、唇はもう完全に紫。それを見て、そろそろ撤収すると告げる。奥さんは、その後もしばらく執拗に溺死体ごっこを続けていたが、やがて満足げに着替えがある岩場に戻って来た。

「きれいな薔薇には棘がある」ー。美しい薔薇に棘があるように、美しいものには人を傷つける側面があるというよく知られた例えだ。仁淀ブルーも然り。夏から秋、冬に向かって水温が下がり、どんどん透明度が高くなり美しさを増す。逆に水温はどんどん下がる。そこには注意が必要だ。

"不思議ちゃん"

TOP_写真AC

われわれ夫婦しかいなかった砂防ダムの"プライベートプール"。そこに突如現れた男性は、実に"不思議ちゃん"だった。まったく言葉を交わさないのに、泳ぐ自分の後を付いて来る。岩場に上って飛び込めば、その人も真似して飛び込む。そんな様子に奥さんも忍笑いしていたようだ。

気まずい雰囲気にたまりかね、飛び込む姿を写真に撮ってあげようかと声をかけると、ゴツゴツした頑丈そうな防水カバーを付けたスマートフォンを渡された。写真はうまく撮れたが、シャッターボタンを誤って長押しし、連写してしまう。どういうわけか怒られた。初対面なのに。

それは百歩譲って良しとしよう。ただ、それ以前に声くらいかけてもらいたいものだ。言葉なく付きまとわれ、しまいには怒られる。あまりに救いがない。登山やハイキングの最中でも、山道ですれ違うと、見知らぬ人でも挨拶を交わす。真似をするなら、そんな行為も真似してほしい。

そして奥さん。この笑えない話を思い出しては今だに大笑いする。(続く)

(写真〈上から順に〉:川遊び中に感じた身体の異変のイメージ=りす作成、愛用するオリンパス製防水デジタルカメラ=ITmedia、無言でつきまとってくる"不思議ちゃん"に困惑=写真AC)

関連リンク(前回の話):

「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:


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