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黄色い悪魔

ーオレとアチキの西方漫遊記(46)

安心しきっているときほど、"落とし穴"にはまる確率が高い。そして、受け身を取れず、想定以上の大きなダメージを受ける。真夜中に静岡県伊東市にある義父の別宅に到着したわが夫婦。クルマを止められないほどに生い茂った雑草に、二人揃って呆然とするも、夜を徹して雑草を抜きまくり、ようやく床に就く。どうにか厄介事は解消した。心を煩わせるものは何もないー。そう思い、安心して眠った。ただ、それは甘かった。

前回のお話:「真夜中の草むしり」/これまでのお話:「INDEX

"落とし穴"再び

この日、再び"落とし穴"にはまる。驚くことに、風呂にスズメバチが住みついていた。数えると、9匹もいる。義父の別宅にある風呂は、温泉から湯を引き込んでおり、それが魅力の一つだ。そこをスズメバチに占拠されている。悪い夢であってほしかった。

スズメバチに襲われて亡くなる人は、年間20人にもなるそうだ。ハチ退治の専門家集団「みんなのハチ駆除屋さん」によると、「毒蛇や熊による被害よりも、スズメバチによる死者のほうが多い」という。風呂を占拠したスズメバチが壁や床に張り付いたまま、じっとしていたのが救いだ。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ー。『孫子』が唱える勝利の方程式だ。それに倣い、情報を得ようと、刺激しないように近寄り、姿・形をじっくり観察する。全長3、4cm。オオスズメバチ、あるいはキイロスズメバチか。ともに気性の荒いスズメバチのうちでも、特に凶暴な"黄色い悪魔"だ。

心刺す失笑

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奥さんが何事かと近づいてきた。それを制し、これまでの経緯を説明する。一難去ってまた一難の状況に、表情を引きつらせる奥さん。勝手知ったる義父の別宅で、温泉にゆっくり浸かり、旅行の疲れを取るつもりだったらしい。精神的にかなりダメージを受けたようだ。

何とかしてあげたいし、このまま放置して東京に戻るわけにもいかない。そこで、新たな厄介事を片付けることにする。その前に、不安に駆られている奥さんを落ち着かせようと、アニメ『進撃の巨人』に出てくるエレン・イェーガーを真似て言う:「駆逐してやる!この世から、一匹残らず!」

予想外の失笑を買う。心に刺さった。(続く)

(写真〈上から順に〉:風呂に住みついたスズメバチ=りす撮影の写真を素に作成、「駆逐してやる!」という台詞で知られるアニメ『進撃の巨人』の主人公、エレン・イェーガー=NAVERまとめ)

関連リンク(前回の話):

「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:


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