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(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記52 新女子たちの京都修学旅行/4日目 みんな来た時よりも美しく~

いよいよわたしたちの京都修学旅行も最終日となった。モーニングコールで目覚めたわたしたちは支度を整え、バイキング形式の朝ごはんをしっかりいただいた後は出発までお世話になったこの京都洛北プリンセスホテルとホテルの目の前にある舞妓になって踊らせてもらったホールの周りのごみ拾いをしていた。

3泊もこのミャーミャー鳴いている子猫のような一団が朝早くから着物の着付けや舞妓扮装をバタバタとして、夜は夜でにぎやかにご飯を食べた後に遅くまで各部屋で寝るのも忘れておしゃべりばかりしていてさぞかしご迷惑だったのではと云う思いから生徒会と行事委員会主導でせめてもの恩返しと云う事で各クラス毎で持ち場を決めてごみ拾いをさせてもらう事にしたのだった。

真冬の京都はさすがに冷え込んでいて寒い。だけど今日も空はよく晴れたいい天気だし、気温は低いけど風もなく穏やかで心地いい。

駐車場、中庭、そしてホールの敷地とホテル周辺をごみ拾いして一通り終了すると初日と同じピンクのかわいらしい感じの観光バスにクラス毎に分かれて乗り、最終日の行程がスタートする。

ホテルを出てすぐのところにある昨日お菓子を買った「ゆうゆうマート」の前を通ると例のお店のオバちゃんが開店準備をしていてわたしたちのバスが通るのに気づいて笑顔で大きく手を振ってくれ、もちろんわたしたちも手を振り返して応える。

今日も初日と同じく女性の運転手さんとかわいい京都弁を喋るバスガイドさんのコンビのこのバスでまず今日の最初の目的地の北野天満宮へと向かう。

北野天満宮は言わずと知れた「学問の神様」の菅原道真公ゆかりの神社で、来年受験を控えたわたしたちにとっては「学業成就」と「成績向上」は必須条件なのでありがたく、そして真剣にお参りさせていただいた。

クラス毎に学級委員を先頭にまとまって本殿でお参りを済ませた後は時間まで境内を自由に散策と云う事でお守りを買い求め、絵馬も買ってお願い事を記入して奉納場所にお掛けする。

午前中と云う事もありまださほど参拝客も多くなくて空いていて落ち着いた雰囲気で且つ凛とした感じの境内を散策しながら歩くのはなかなかにいいもので「みんな志望校に合格できたらいいな。」と思いながらお散歩を楽しませてもらう。

時間になったので出発し、バスの中では先程の天満宮からいただいた合格鉛筆・由緒書・特製しおりの参拝記念品のセットが各人に配られ、それとは別にクラスごとに特製の勧学木札もいただいてこちらは栗田先生が大切に学校までお持ち帰りしてくださるとの事。

そして北野天満宮の参拝が終わると続いては「なんでも京都にこだわる修学旅行」でもあり工芸品の制作体験をすると云う事で予約している施設へと出向く。

今回は「無線七宝」なる各自が用意されている七宝焼のキットに絵付けをしたり文字を書き込んだりするコースを体験するようになっていて、みんなでワイワイガヤガヤああでもない、こうでもないと言いながらそれぞれに好きな絵柄や文字を書き込んでいく。

一応事前にどんな絵や文字を書くか考えておくようにと言われていたのだがどんなのがいいか考えれば考えるだけ訳が分からなくなっていたわたしは結局絵柄も文字も決まらずにここの施設に来る羽目になり、元々不器用な事もあってみんなのを見ながらあくせくしながら絵付けをする始末。

見てるとさすがに手先の器用な弥生ちゃんはスマホを作業スペースの横に置いて自撮りした舞妓になった自分を描いており、またそれがうまい。

他にもそれぞれが色んな絵や文字を書いていたのだが林ちゃんの作業しているのを覗いてみると何やら薄い茶色のようなものを描いていて「林ちゃん、それ何書いてるの?。」と聞いてみると「ああ、コレネ。林ちゃんは生八つ橋を描いてイルンダヨ!。」と言う。やっぱりここでも林ちゃんは食べるものがモチーフなのね・・・・・。

そしてわたしは2日目に自由行動で行った伏見稲荷大社の千本鳥居をイメージして描いているとなんとか時間ぎりぎりで間に合い、七宝焼きをお店の窯で焼いてペンダントかキーホルダーに加工してもらう間を利用してお昼ご飯をいただく事に。

食事場所に行ってみるとお膳にちょこんと乗った京都らしい上品な感じの「おばんざい」と今日みたいな寒い日にはありがたい一人鍋が並んでいてみんなで楽しみながらおいしくいただく。

それにここはご飯のお代わりは無料ですとお店の人がおっしゃってくれ、それを聞いた林ちゃんは遠慮なくご飯を2杯お代わりしている。

たださすがにご飯を2杯もお代わりするのは林ちゃんだけで「ほんまにこの生徒さんはよう食べはりますねえ。」とお店の人も言っているが林ちゃんは気にせず「アリガトゴザイマス!。ご飯とってもオイシインデスヨ!。」と言いながら満足そうに食べていて、わたしたちもご飯のお代わりはしなかったけど内容もお味にも満足してこの昼食をいただいていた。

昼食後は七宝焼きが出来るまで同じ館内にあるお土産品コーナーでみんなと一緒に京都の民芸品や特産品を買い求める。お土産品コーナーには寄木細工や清水焼、京象嵌と云ったやや値の張る京都産の本格的な工芸品から手頃な小物類まであれこれと豊富な品ぞろえで、そんな店内を見て回りながら品定めをしていると楽しくて仕方ない。

時間ぎりぎりまでお買い物をして先程体験制作をした七宝焼もできあがってきたとの事で受け取りバスに戻って出発し、これにて一応予定の見学コースは全て終了したので大きな朱塗りの平安神宮の大鳥居や京都の街並みを車窓から見ながら一路帰りの新幹線に乗るのに京都駅へと向かう。

京都駅では元々渋滞等あってもいけないので早めに着くようにスケジュールを組んでいたのもあってわたしたちが乗る予定の新幹線の出発時間まであと1時間半あり、時間調整と云う事で駅ビル内で自由行動となった。

わたしは放送部の後輩にお土産を買ってないのを思い出して梢ちゃんと映美ちゃんといっしょにお買い物に、同じように千尋ちゃんと林ちゃんもバトミントン部の後輩にあげるお土産を買いに行くことにして、お買い物の済んでいたあゆみちゃんと梨子ちゃんと弥生ちゃんは駅構内のカフェで抹茶ラテを飲みながら休憩とそれぞれ時間まで別行動をする事に。

駅ビル内のお土産コーナーはわたしたちと同じような修学旅行生は時期的にそんなにいなかったけど、それでも団体客や個人の観光客はオフシーズンなのに結構いて、またここでもインバウンド観光客は多くて袴姿のわたしたちは自然と目立っていて一緒に写真をせがまれながらお土産を選んだ。

買い物を終えて集合場所に戻ると少し遅れて千尋ちゃんが帰ってきたが林ちゃんはまだで何でもまだ買いたいものがあるから先に帰っててと言われたとの事。「何を林ちゃんはまだ買うんだろう?。」と思っていると「イヤー、ミンナ遅くなってゴメンネー。」と林ちゃんが両手いっぱいにレジ袋を抱えて戻ってきた。

何をそんなにいっぱい買ってきたのかと思っていると「コッチはね、帰りの新幹線の中でミンナで食べるお菓子ダヨ!。やっぱり電車の旅ナラお菓子は必需品デショ!。」と云うそのレジ袋の中にはいっぱいお菓子やジュースが入っていて、もう一つのレジ袋には京漬物やふりかけ、お茶パックがこれまたいっぱい入っている。こちらはなんでも寮で食べる目的のお土産を兼ねて買った食材で、日本に観光旅行で来た時に地元のスーパーでちょっとしたお土産になりそうなものを買うと安くていいと云うのを実感として覚えていて確か京都駅にもスーパーがあったのを思い出して買いに行ってきたのだとか。

そうしているうちにあゆみちゃんたちのカフェ組も帰ってきて集合時間にちょうどなり、クラスごとに人員確認と整列をしてわたしたちはホームに上がる。

「西高東低の冬型の気圧配置で三寒四温」とはよく言ったもので、考えてみればこの修学旅行の4日間はいずれの日もお天気に恵まれ、気温も真冬にしては昼間はそこまで下がる事のない穏やかな毎日だったなと思っているとわたしたちの乗る新幹線がやってきて行きと同じように急いで乗りこんで中に入ってからそれぞれ決められた席に座る。

席についてからは林ちゃんの買ってきたお菓子を食べながら班のみんなでおしゃべり。帰路は同じ車両にそこそこ一般のお客さんもいらっしゃるので控えめにおしゃべりしようと思っていたがやはりところどころ声が大きくなり、通路を見回りにやってきた先生に注意される始末。でもよくこんなに話す事あるなと思う位おしゃべりは続き、同じ位ごはんはしっかり食べているのにも関わらずよくこんなにお菓子を食べられるなと思う位間食をするわたしたちだった。

楽しくおしゃべりをしていると「お客様にご案内申し上げます。ただいま進行方向の左側に富士山が見えております。」と車内放送が入り、わたしたちだけでなくほぼ生徒全員がのぞき込むように窓の外に見える富士山を目で追った。「わあーすごいねー。大きいねー。」「雪をかぶっててきれいー。」などと窓越しに見える冬晴れに映える富士山はこんなに間近ではっきりと見たのは初めてな事もあり、とても感動的ですらあった。

中学の時の修学旅行で行くはずだったけどいじめにあっていて行かずじまいだった京都。その京都は初めてと云う事もあって何から何まで珍しくまた印象深い事ばかりで、街の持つ歴史と風情に触れるうちにわたしは京都が大好きになっていった。

わたしだけではない。他校の友達には修学旅行でオーストラリアやカナダ、グアムと云った海外が行き先だと聞かされ、行くまでは「なんで高校の修学旅行なのに中学の時みたいにうちの学校は京都に行くの?。」と半ば否定的な声もちらほら聞こえていたのも事実だったが、行ってみると正絹の友禅の着物を着て自由行動をし、舞妓になって踊ったりの毎日の行程をこなすうちに誰もそんな不平不満を口にする生徒は皆無になっていた。

それどころか中学の時やプライベートで京都に来た事のあるほとんどの生徒が京都の魅力を再発見し、また個人旅行では経験できない団体旅行ならではの趣向を凝らした内容のコースをみんなで満喫した。

夏のインターンシップでJPNトラベルで少しの間お世話になったわたしは旅行の手配や段取りが思った以上にとても大変なのは支店のみなさんの仕事ぶりを見させてもらって感じてはいたけど、改めてひとつの旅行をスムーズに進める事がどれほど大変かがよく分かった。

もちろん企画・立案をしてくださった波方さんの熱意と頑張りと日頃のお仕事の中で得たスキルによるものが大きいのだけど、それ以外にもホテルの方や衣装やメイク・着付けで大変お世話になった着物業界の方に各観光地や見学場所のスタッフの皆さん、観光バスの運転手さんやガイドさんみんながわたしたちの修学旅行を安全で快適で且つ実り多いものにする為にお世話してくださったのも大きかったと思う。

そんな事を感じながらおしゃべりしているうちに今度は別の車内放送で「ただいま列車は定刻通り小田原駅を通過しております。あと〇〇分で予定通り・・・・・。」とアナウンスが入る。

「じゃあみんなそろそろ下車準備はじめましょう。」と生徒会長のあゆみちゃんの号令でみんなで車内のごみ拾いに掛かる。

これも騒々しくお菓子を食べながらおしゃべりをしてご迷惑をおかけしたわたしたちが何か出来る事はないか考えて今朝のホテルと周辺のごみ拾いと同様に新幹線の車内でも自主的に清掃活動をしようと生徒会と行事委員会で決めてごみ拾いをする事にしたのだった。

わたしたちの班を見るまでもなくどの席でもお菓子をたらふく食べている事もあり、みるみるうちにごみ袋がいっぱいになっていき、ついでにわたしたちの席だけでなく一緒の車両に座っている一般の方のお席にも出向いてごみを回収させてもらった。

ごみを集めていると林ちゃんが先頭を切ってテキパキと動いている。「林ちゃんえらいねー。」と言うと「そんな事ナイデショ!。元々日本では一部の人だけカモ知れないケド”来た時よりも美しく”と云う事を言われるヨネ。わたしたちもこの修学旅行でキレイな着物を着タリ、舞妓にナッテ美しくナッチャッタンデショ。つまりわたしたちダッテこの修学旅行で京都に行って”来た時よりも美しく”ナッタ訳だからお礼に使ったところをキレイにするのは当然ナンダヨネ。」と林ちゃんは言う。

来た時よりも美しくか・・・・・。そうだよね。わたしもみんなも確かにこの修学旅行で普段体験できないようなプログラムのおかげで随分と着飾った訳だしほんとそれは合ってる。林ちゃんはいい事言うなあ・・・・・。

ごみを集め終わるとちょうど駅に到着の時間が近づいてきた。棚からカバンを下ろし、通路に並んでみんなで下り仕度。「みんなー忘れ物ない?ー。棚の上や座席のポケットとかもう一度確認して見てねー。」と千尋ちゃんが言う。さすがに学級委員でもあるし観光業界を将来志望している千尋ちゃんはまるでツアーガイドさんのようで「はーい、大丈夫だよー。」とクラスの子たちも答える。

もう間もなく新幹線は駅に着く。着くと修学旅行も無事おわりで2年生になってからの行事委員は大変だったけどやっとこれで肩の荷が下りる。だけど今回の修学旅行とっても楽しかった。両手にはお土産物いっぱい、胸の内には想い出いっぱいのこの旅行は間違いなくわたしにとってこれまでで一番楽しい旅行になった気がした。

(つづく)




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