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「信じあえる主客対等」を目指して~その3 総括と感謝~

 宿泊約款の強化、徹底した情報開示、利用規則の直接説明とお客様へ同意確認…。 西屋の採った対応は、見ようによってはお客様に距離を隔てたような印象を与えてしまったかもしれません。
しかし私たちの意図はむしろ真逆で、大きく傾いていた主客の天秤を平行に戻し、これまで以上に互いの信頼と尊重を持って歩み寄れるようにすることこそが、この度の改定の眼目でした。

 利用規則に記載されている事柄は、 本来どれも常識の範囲に収まる内容ばかりです。そもそもお互いに信頼と尊重があれば、利用規則自体必要ないと言っていいほどです。
問題は、ほんの一握りのお客様。
例えば隅々まで綺麗に掃除したばかりの部屋でタバコを吸う、些細な対応が気に障ったと言いがかりをつけ延々とスタッフを罵倒する、はては料金を下げろと要求してくる…。

危機管理のための部門がきちんと分かれている大きな事業所と違い、家族サイズが圧倒的に多い小さなサービス業の多くは、そんな彼らの心無い言動ひとつで、体力的にも精神的にも大きなダメージを受けることがあります。

最初のnoteで「サービス業はどうも低く見られがち」と書きました。
何故なのかずっと疑問でしたが、どうやら私達サービスを提供する側の自己評価の低さに、その原因の一端があったのではないか。私はそう考えるようになりました。

 日本では、依然として「顧客第一主義」という偏った美徳意識が強い傾向があります。サービスの平等な対価として代金があるのにも関わらず「お客様からお金を頂いている」という妙な遠慮から、理不尽なトラブルやクレームに真っ向から立ち向かうことをあまり是としてきませんでした。現場の人間だけがひたすらに耐え、ただただ苦い思いを抱え続ける。これではとても「主客対等」とは言えません。

サービス業はすべからく人が財産です。
お客様が人なら、私達もまた人です。
自分達を大切にできない旅館が、お客様を大切にできるわけがありません。サービス業の誇りは自分達で守るべきだ。

私はこの度の経験を通して、それまでの認識を大きく改めました。

宿の趣旨を包み隠さず情報開示するから、より好意的に理解して下さるお客様に選ばれやすくなります。逆に趣旨と合わないと感じた方はご予約に至らず、予め不和の元に至る可能性を絶つことができます。万が一トラブルが起きても、自衛手段が確立しているから一方的にこちらが屈することはありません。スタッフは緊張を抱くことなく、お越しになったお客様にゆとりある接客ができます。

お客様もまた、宿の在り様を事前によく理解できるため、来館してから「こんなはずじゃなかった」と情報の齟齬に戸惑うこともありません。行き違いでもめる心配をすることもなく、安心して寛ぐことができるでしょう。

自らの商売の何たるかをよく知り、何よりも大事に守るということは、巡り巡って、お客様を大切にすることに繋がります。お互いを尊重し合ってゆくことこそ、お互いを正しく信じ合える主客対等のあるべき姿ではないかと私は考えています。

騒動以降、SNSではたびたび中傷に晒され、ひどく悩んだ時期もありました。それでも、多くの方々に支えて頂いてここまで来られました。

今回の対策にあたり、法律の知識が皆無の私に宿泊約款の重要性や旅館業法、その他関連法について詳しくご教示くださった米沢舞鶴法律事務所(米沢市)の弁護士遠藤正紀さん。そして、新しい宿泊約款と利用規則の策定に全面的にご協力下さり、一言一句に至るまで詳しく解説をしながら体系を纏めて下さった法律事務所インテグリティ(神奈川県横浜市)の弁護士徳田暁さん。西屋を良く知るお二人に深いご賛同と多大なご協力を頂けましたことは、私にとって本当に心強い支えとなりました。
また、西屋を訪れた際に直接折々温かい励ましの言葉をかけて下さったたくさんのお客様、SNSで激励やご賛同を下さった多くの方々、たびたび騒動に自ら突っ込んでいく無鉄砲な女将であるにもかかわらず、「私達は女将についていく」と気持ちひとつで支えてくれたスタッフのみんなに、この場を借りて深く御礼申し上げます。

サービス業とお客様の穏やかな関わり方について、少しでも読んで下さった方々の参考となれば幸いです。

(完)

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